「 農業 エネルギー効率 」とは?1kcal食べるのに3.54kcal使っている話【第1回】

結論からお伝えします。私たちが食べ物を1キロカロリー食べるために、その裏側では約3.54キロカロリー分のエネルギーが使われています。土木学会の論文(長沼ら、2014年発表・2009年時点の推計)による数字です。おにぎり1個のカロリーを取り出すために、その3倍以上の石油や天然ガスが、畑・工場・トラック・冷蔵ケースのどこかで燃えている、ということになります。

当社では先日、「 岩手 農業 気候変動 」2050年の米・りんご・畜産はどうなる?という記事で、気候変動が農業に何をするのかをお伝えしました。今回から始まる全5回のシリーズは、そのちょうど裏側です。テーマは「農業が気候変動に何をしているのか」。ただし、農業や農家の方を責めるための連載ではありません。なぜ今の形になったのか、そして何ができるのかまで、5回かけてご一緒に見ていきます。第1回は、この連載を読み進めるための「数字の読み方」をお渡しします。

「1kcal食べるのに、3.54kcal使っている」――まず結論から

先ほどの3.54という数字は、単純な割り算から出ています。日本人1人が1日に食べ物から取り込む熱量が約1,400キロカロリー(実際に体に入る「摂取熱量」の推計値)。それに対して、その食べ物を用意するために投入されているエネルギーが1日あたり約4,950キロカロリー。4,950 ÷ 1,400 で、約3.54倍です。

1日4,950キロカロリーを1年分に積み上げると、1人あたり約7.6ギガジュール(ジュールは熱量の単位。ギガジュールはその10億倍)になります。環境省の調査では、一般家庭1世帯が1年間に使う電気は3,911キロワットアワー(令和5年度)で、これは約14.08ギガジュールにあたります。つまり1人分の食料を用意するためのエネルギーは、家庭1軒の年間電力のおよそ半分という計算です。4人家族なら、食べるためだけに家2軒分の電気に相当するエネルギーが動いていることになります。

ここで2つ、大事な但し書きがあります。1つめはこの数字がカバーしている範囲です。穀類・いも類・豆類・野菜類・果実類・肉類・魚介類・乳製品の8種類について、生産から流通、家庭に届くまでを積み上げたもので、輸入されたぶんも含まれています。ただし家庭での調理は含まれていません。つまり「食卓まで・輸入込み・調理は別」の数字です。

2つめは、論文自身が「この値は現実より大きく出ている可能性がある」と注記していることです。海外で作られた食料のエネルギー原単位(一定量を作るのにかかるエネルギーの目安)に日本の値を当てはめて計算しており、海外の原単位は日本より小さい可能性があるためです。3.54という数字は、おおよその桁を示すものと受け取るのが正確です。

なお、この3.54は「投入 ÷ 摂取」なので、小さいほど効率が良い数字です。第3回に出てくる「エネルギー収支比」は逆に「産出 ÷ 投入」で、大きいほど効率が良くなります。同じ「効率」という言葉で向きがひっくり返るため、この連載では毎回、どちら向きの数字なのかを明記します。

農業は日本のCO2の4.8%――でも、この数字には入っていないものがある

では、農業は日本全体の温室効果ガスのうちどれくらいを占めるのでしょうか。農林水産省「施設園芸をめぐる情勢」(令和8年5月)によると、2023年度の農林水産分野の温室効果ガスは5,103万トン(CO2換算)で、日本の総排出量10億7,100万トンの4.8%です。「思ったより小さい」と感じた方が多いかもしれません。

中身を見ると、CO2は全体の37.1%(うち燃料を燃やして出るぶんが1,855万トン)で、残りは田んぼから出るメタンなどが47.5%、家畜のふん尿や土壌から出る一酸化二窒素などが15.4%です。農業の温室効果ガスは、化石燃料だけの話ではないという特徴があります。

そして、ここが今回いちばんお伝えしたい点です。この4.8%は、日本国内の農場・漁場で出たぶんだけを数えた数字です。海外の工場で作られた肥料の製造エネルギーも、海外から食料を運んでくる船の燃料も、この中には入っていません。国内の田畑で起きたことだけを写した写真、と考えていただくと分かりやすいと思います。

同じ「農業のエネルギー」でも、3つのモノサシがある

ここまでで、3.54倍という数字と、4.8%という数字が出てきました。この2つは足し算できませんし、どちらが大きいという比較もできません。測っている範囲がまったく違うからです。農業のエネルギーを扱う資料には、大きく分けて次の3つのモノサシが混ざっています。

同じ「農業のエネルギー」という言葉でも、①は狭く、②は広く、③は細長い範囲を測っています。ニュースやSNSで農業と環境の数字を見かけたとき、その数字がどこからどこまでを含んでいるのかを確かめるだけで、話の見え方はかなり変わります。この連載では毎回冒頭で、「今回はどのモノサシの話か」を1行で書くようにします。

農業のエネルギー効率を測る3つのモノサシを比べた図解。畑から工場・港、お店、食卓、ごみ箱への流れの下に3本の帯を並べ、①農場まで(国内のみ)は農林水産分野の温室効果ガス5,103万t-CO2=日本の総排出の4.8%(2023年度)、②食卓まで(輸入込み)は1kcal摂取あたり投入3.54kcal(2009年推計)、③輸送だけは1人あたり年間約130kg-CO2を示し、この3つは範囲が異なるため足し算も大小比較もできないことを表している。

38%――残りは海の向こうから来ている

3つめの数字です。農林水産省によると、令和6年度の日本の食料自給率はカロリーベースで38%。私たちに供給されているカロリーのうち、6割以上が海外で作られたものだということになります。

この38%という数字は、エネルギーの話としても効いてきます。輸入が多いということは、そのぶん「日本の統計に映らないエネルギー」が増えるということだからです。海外の畑で使われた燃料、海外の工場で作られた肥料、そこから港までのトラック、日本までの船。どれも実際に消費された化石燃料ですが、先ほどの4.8%には含まれていません。

この「見えないエネルギー」が、第2回から第4回の主題になります。第2回は肥料(「 農業 肥料 エネルギー 」の意外な内訳)、第3回は冬のハウス栽培、第4回は輸送と食品ロスです。

これは農家の責任ではない

ここまで読んで、「農業はエネルギーを使いすぎではないか」と感じた方もいるかもしれません。この連載の立場を、最初にはっきり書いておきます。これは農家の方の選択ミスではありません。

今の農業の形は、限られた人手で日本中の食卓を毎日支えるために選ばれてきた形です。農村の働き手が大きく減っていくなかで、その減った分を機械と肥料が肩代わりしてきました。冬でも野菜が店に並ぶのも、季節に関係なく食べたいという私たちの需要に、産地が応えてきた結果です。エネルギーをたくさん使う農業は、安く・安定して・一年中食べたいという社会の要求に対する、合理的な答えだったといえます。

ですから、この連載で「多い」「大きい」という数字が出てきても、それは誰かを責めるための材料ではありません。どこに一番エネルギーが集まっているかが分かれば、どこを直せば一番効くかも分かる。そのための地図づくりだと考えていただければと思います。

私たちにできること

第1回でお持ち帰りいただきたいのは、行動というより「数字の見方」です。

当社は建設業ですが、エネルギーの統計上は農業と同じ「農林水産鉱建設業」という区分にまとめられています。自分たちが使っている量を数えるところから始めなければならない、という点では、農業も建設業も同じ立場にいます。そのあたりは第5回でお話しします。

まとめ

※本稿は2026年8月時点で公表されている資料に基づく時点情報です。食料自給率や温室効果ガスの排出量は年次ごとに更新され、エネルギー投入量の推計も研究の進展によって変わる可能性があります。最新の数値は各機関の公式発表をご確認ください。また、本稿で紹介した数値はそれぞれ推計の前提と対象範囲が異なるため、単純な合算や比較はできません。

参考・出典

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