「 農業 肥料 エネルギー 」の意外な内訳――田んぼで使う燃料より、肥料を作るほうが多い【第2回】
結論からお伝えします。田んぼで使うエネルギーの内訳を開けてみると、いちばん大きかったのはトラクターの軽油ではなく、肥料でした。ある水稲の研究では、投入エネルギーのうち肥料が32.1%で単独最大、田んぼで燃やす燃料は27.1%です。さらに、機械・肥料・燃料を「作る段階」で使われたエネルギーが全体の62.8%を占めていました。田んぼで燃やすより、田んぼに持ち込むモノを作るほうが、エネルギーを使っているということです。
前回の「 農業 エネルギー効率 」とは?1kcal食べるのに3.54kcal使っている話で、農業のエネルギーには「農場まで」「食卓まで」「輸送だけ」の3つのモノサシがあるとお伝えしました。今回は、いちばん狭いモノサシ――①「農場まで」の話です。今回引用する研究では、この範囲を「圃場(ほじょう=田畑)まで」と呼んでいます。田んぼの中で何が起きているかを、1ヘクタール分だけ切り出して見ていきます。
田んぼ1ヘクタール分のエネルギーは、家庭1.6軒分の年間電力
まず、量から確かめます。野口良造・齋藤高弘の研究(農業情報研究、2008年発表)では、機械化された水稲栽培のエネルギー消費量は1ヘクタールあたり22,621メガジュール(ジュールは熱量の単位。メガジュールはその100万倍、ギガジュールはさらにその1,000倍)=約22.6ギガジュールと算出されています。2001年の宇都宮大学附属農場での実績にもとづく数字で、玄米の収量は1ヘクタールあたり4,650キログラムでした。
環境省の調査による一般家庭1世帯の年間電力(3,911キロワットアワー=約14.08ギガジュール)を分母にすると、22.6 ÷ 14.08 でおよそ1.6軒分。1ヘクタールは100メートル四方ですから、サッカーコート1面半ほどの広さの田んぼを1年間耕して、家庭1.6軒が1年に使う電気と同じくらい、という計算になります。10アール(1,000平方メートル)あたりなら約2.26ギガジュールです。
正直なところ、「意外と少ない」と感じた方が多いのではないでしょうか。私も最初はそう思いました。この22.6ギガジュールが多いのか少ないのかは、第3回でハウス栽培と並べたときにはっきりします。今回大事なのは、量そのものより中身です。
なお、この数字の範囲には但し書きがあります。対象は圃場まで。乾燥調製施設(収穫した米を乾かして選別する設備)などの設備と、圃場の基盤整備(区画整理や排水路の工事)は含まれていません。論文自身が、それらを含めれば効率はさらに下がると明記しています。
内訳を開けると、1位は肥料だった
同じ研究による、22,621メガジュールの内訳です。
- 肥料 32.1%(単独で最大)
- 燃料使用 27.1%(トラクターやコンバインが実際に燃やした軽油など)
- 機械製造 19.6%(農業機械を作るのに使われたぶん)
- 電力使用 10.0%
- 燃料製造 6.5%(軽油などを精製して運ぶまでのぶん)
- 農薬類 4.6%(除草剤・殺虫剤・殺菌剤の合計)
※各項目は小数第2位を四捨五入しているため、合計は100%ちょうどになりません。
「農業のエネルギー=トラクターの軽油」というイメージからすると、順番が逆に見えます。実際に田んぼで燃やしている燃料は27.1%で2位。1位は、袋に入って農協から運ばれてくる肥料でした。しかも肥料自体は、田んぼでは何も燃やしません。燃えたのは、その肥料を作った工場のほうです。
「直接」と「間接」――燃やすエネルギーと、作るエネルギー
ここが今回いちばんややこしいところなので、丁寧にいきます。先ほどの6項目は、性質の違う2つのグループに分けられます。
- 直接エネルギー(37.1%):燃料使用27.1% + 電力使用10.0%。その田んぼで、その年に実際に燃やした・使ったぶんです
- 間接エネルギー(62.8%):肥料32.1% + 機械製造19.6% + 燃料製造6.5% + 農薬類4.6%。田んぼに持ち込むモノを、どこかの工場が作るときに使ったぶんです
間接エネルギーは、その田んぼでは1滴も燃えていません。けれども、肥料を作らなければ田んぼには置けないし、トラクターを作らなければ耕せません。作物を育てるために必要だったエネルギーであることは変わらないので、こうした研究では投入分として合算します。
そして、間接のほうが62.8%と多い。農作業の風景を眺めていても見えないところに、エネルギーの3分の2近くが隠れているということです。省エネを考えるとき、アイドリングを止めるだけでは37.1%の側にしか手が届かない、とも言えます。

肥料はどこで作られているのか
では、その最大項目である肥料は、どこで作られているのでしょうか。
窒素肥料のもとになるのはアンモニアです。国際エネルギー機関(IEA)の報告書「Ammonia Technology Roadmap」(2021年)によると、アンモニアの製造は世界の最終エネルギー消費の約2%(8.6エクサジュール。1エクサジュールは、先ほどのギガジュールの10億倍です)を占め、その製造方法の7割強が天然ガスを高温の水蒸気と反応させる方式です。そして、作られたアンモニアの約70%が肥料向けに使われています。世界のエネルギーの一部が、肥料という形で世界中の畑に配られている、という構図です。
ここで日本の事情が関わってきます。農林水産省「肥料をめぐる情勢」(令和8年7月)によると、日本は肥料原料をほぼ全量、輸入に頼っています。尿素の国産は約3%にとどまり、りん鉱石と加里(カリ)鉱石にいたっては国内の産出がありません。しかも輸入先はごく少数の国に偏っており、令和6肥料年度(令和6年7月〜令和7年6月)の実績では、尿素の74%がマレーシア、りん酸アンモニウム(りん安)の72%が中国、塩化加里の78%がカナダから来ています。
つまり、日本の田んぼの投入エネルギーで最大の32.1%を占める肥料は、その大半が海外の工場で作られています。そこで燃えた天然ガスは、日本のエネルギー統計にも、前回ご紹介した農林水産分野の温室効果ガス(総排出の4.8%、2023年度)にも計上されません。第1回でお伝えした「農場まで」というモノサシの、これが具体的な中身です。数字が小さく見えるのは、範囲の外に置かれているものがあるからだ、ということになります。
なぜ肥料と機械に頼る形になったのか
ここまで読むと「肥料を減らせばいいのでは」と思えてきますが、その前に、なぜこの形になったのかを見ておく必要があります。
農林水産省の統計では、基幹的農業従事者(ふだん農業を主な仕事にしている人)は令和2年の136.3万人から令和8年には98.7万人となり、ついに100万人を割りました。6年で約4割減った計算です。1960年代からの長い減少も知られていますが、令和2年に集計対象が「販売農家」から「個人経営体」に変わっているため、当時と現在を1本の線で比べることはできません。それでも、日本の食卓には毎日ごはんが並んでいます。減った人手の分を肩代わりしたのが、機械と肥料です。
かつて何人もで日がかりで行っていた田起こしはトラクターが担い、刈り取りと脱穀はコンバインが担うようになりました。堆肥をまき、緑肥を育て、地力を保つために手間をかけていた工程は、化学肥料が置き換えました。人手が減った分を、エネルギーが肩代わりしてきたと言い換えることもできます。
ですから「肥料が32.1%」という数字は、農家の方が無駄遣いをしてきた記録ではありません。少ない人数で日本中の食卓を支えるために選ばれた、合理的な答えの記録です。そのうえで、同じ量を作るのにもっと少ないエネルギーで済む方法があるなら試す価値がある、というのが次の話になります。
コラム:「昔の農業は省エネだった」は本当か
機械化の話をすると、「昔の農業のほうが省エネだったのでは」という疑問が出てきます。ところが、数字は逆を向いています。
先ほどの論文が並べている過去の推計では、1976年の水稲は1ヘクタールあたり184,800メガジュール(約184.8ギガジュール)。2001年の22,621メガジュール(約22.6ギガジュール)と比べると、数値のうえでは8倍以上の差があります。産出したコメの熱量を投入エネルギーで割った収支比(大きいほど効率が良い指標)も、0.39に対して3.01です。
ただし、この2つは比較できません。論文自身が理由を3つ挙げています。①1976年の推計は原料の輸入にかかるエネルギーまで対象に入れており、範囲が広い ②2001年側が使った原単位のデータベースは機械・資材の製造エネルギーが1990年の値で、1976年当時より著しく減っている ③この附属農場は一般の農家より低農薬・低化学肥料で、化学肥料は半分以下、殺菌剤の散布は3分の1程度である――範囲・データの年次・栽培方法の3つが同時に違うため、差の何割が何によるものかを切り分けられないのです。
ですから、「同じ量のコメを作るのに必要なエネルギーが8分の1になった」とは書けません。この連載では、読めない数字は読めないとお伝えすることにします。
私たちにできること
- 「作る段階」まで想像してみます。畑で燃えているものだけがエネルギーではありません。肥料も機械も、使う前に誰かが作っています
- アイドリングを止めます。農林水産省の「農業機械の省エネ利用マニュアル」によると、30馬力級のトラクターはアイドリング1時間で軽油約0.7リットルを消費します。同じマニュアルには、ロータリ耕でエンジン回転を定格から1,800回転に落とせば燃料が約20%減る、という実測も載っています
- 肥料を減らす取り組みを知っておきます。土壌診断にもとづく施肥や堆肥の活用は、最大項目に直接効く打ち手です。国の方針との関係は第5回で扱います
最後の点は、当社にとっても他人事ではありません。アイドリング1時間で軽油0.7リットルという話は、農業機械でも建設機械でもまったく同じです。業種が違っても、現場でやることはそう変わりません。このあたりは第5回で改めてお話しします。
まとめ
- 機械化された水稲のエネルギー消費量は1ヘクタールあたり22,621メガジュール(約22.6ギガジュール、2001年の実績)。一般家庭およそ1.6軒分の年間電力にあたります。範囲は圃場までで、施設設備と圃場基盤整備は含みません
- 内訳の1位は肥料で32.1%。田んぼで燃やす燃料使用は27.1%で2位、機械製造が19.6%と続きます
- 肥料・機械・燃料などを「作る段階」で使われた間接エネルギーは全体の62.8%。実際に田んぼで使う直接エネルギー(37.1%)を上回ります
- その肥料の原料はほぼ全量が輸入で、尿素の国産は約3%、りん鉱石・加里鉱石の国内産出はありません。海外の工場で使われたエネルギーは、日本の統計には計上されません
- この形になったのは、担い手が大きく減るなかで食卓を支えるために、労働力を機械と肥料に置き換えてきたからです。1976年との8倍差は、範囲・データの年次・栽培方法が同時に違うため比較できません
※本稿は2026年8月時点で公表されている資料に基づく時点情報です。水稲のエネルギー消費量は2001年の特定の農場での実績にもとづく推計であり、地域・品種・栽培方法によって変わります。肥料原料の輸入状況や農業の担い手の数は年次ごとに更新されるため、最新の数値は各機関の公式発表をご確認ください。また、本稿の数値は対象範囲(圃場まで)が限定されており、前回・次回で扱う数値との単純な合算や比較はできません。
参考・出典
- 野口良造・齋藤高弘「インベントリ分析による機械化水稲生産のエネルギー消費量・効率の考察」農業情報研究 17(1)、2008年
- IEA「Ammonia Technology Roadmap」(2021年)
- 肥料をめぐる情勢(農林水産省、令和8年7月)
- 農業労働力に関する統計(農林水産省、農林業センサス・農業構造動態調査、令和8年)
- 地球温暖化対策 農業機械の省エネ利用マニュアル(農林水産省生産局/日本農業機械化協会編、平成21年3月)
- 令和5年度 家庭部門のCO2排出実態統計調査 結果について(確報値)(環境省、令和7年6月)
- エネルギー種別の発熱量・CO2排出係数(環境省)
- 施設園芸をめぐる情勢(農林水産省、令和8年5月)
- みどりの食料システム戦略(農林水産省)
- 「 農業 エネルギー効率 」とは?1kcal食べるのに3.54kcal使っている話(石名坂ブログ・第1回)
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