「 エネルギー安全保障 」とは?化石燃料に年25兆円を払う日本の構造【第3回】

環境学習シリーズの第3回です。前回は、商用車のZEV(ゼロエミッション車)転換について、JCLPの意見書をもとに整理しました。

今回のテーマは「 エネルギー安全保障 」です。JCLPが2026年7月30日に公表した意見書「日本のエネルギー安全保障の強化に向けて」を取り上げます。副題は「半世紀越しの宿題 ― 今が、化石燃料依存という構造問題に向き合う機会」。燃料価格の高騰に頭を悩ませてきた事業者にとって、他人事ではない内容です。

なお、この意見書の時点でJCLPの加盟企業は237社、総売上高は138兆円となっています(前回ご紹介した6月時点の233社・約136兆円から増加しています)。

化石燃料の輸入に年約25兆円、化石燃料依存度94%から80%への推移、ホルムズ海峡封鎖による原油・LNG価格高騰、JCLPが挙げる5つの領域を示した図解
化石燃料への依存が生む負担と、JCLPが挙げる5つの改善領域

エネルギー安全保障 とは何か

エネルギー安全保障とは、必要なエネルギーを、必要なときに、無理のない価格で確保できる状態を保つことをいいます。

日本は資源のほとんどを輸入に頼っているため、海外の情勢がそのまま国内の燃料価格に跳ね返ります。軽油やガソリンが値上がりするたびに運送費や工事原価が押し上げられるのは、私たちが日々経験しているとおりです。

2026年3月のホルムズ海峡封鎖で何が起きたか

意見書が強い危機感をもって書かれている背景には、2026年3月に発生したホルムズ海峡の封鎖があります。中東からの資源輸送の要衝が閉ざされたことで、エネルギー調達コストが急騰しました。

記録的な猛暑が常態化し、冷房を控えることが命に直結しかねない状況のなかで、この価格高騰が重なりました。家計・企業・財政のいずれにも深刻な影響が及んでいる、というのが意見書の現状認識です。

平時でも年間25兆円。化石燃料の輸入額

意見書が繰り返し指摘するのは、危機のときだけの問題ではないという点です。

日本は平時でも化石燃料の輸入に年間25兆円規模を支払い続けています。財務省の貿易統計によれば、2022年度は約35.3兆円、2023〜2025年度の平均は約24.2兆円でした。危機が起きればこの額はさらに膨らみ、国富の流出が加速します。

25兆円という額は、日本の国家予算の規模と比べても相当なものです。この金額が毎年、海外へ出ていっている。それが構造として固定されている、という指摘です。

食料にも及ぶ影響 — 肥料は天然ガスからつくられる

意外に見落とされがちなのが、農業への波及です。日本の農業に欠かせない窒素肥料は、その多くが天然ガスを原料としています。日本はこれを海外に依存しているため、エネルギー危機がそのまま肥料コストの高騰に直結します。

実際、令和8肥料年度の秋肥では、中東情勢を受けて輸入尿素が前年比+14.5%の大幅値上げとなりました(2026年5月公表)。エネルギーの問題が、食料安全保障の問題にもつながっているわけです。

補助金は「短期には不可欠、長期には問題」

燃料価格が上がると、政府は補助金を出して価格を抑えます。意見書はこれについて、両面から評価しています。

短期的には、家計や企業を守るうえで不可欠な措置である。しかし長期化すれば、財政の健全性を損なうおそれがあるうえ、「このままでよい」という誤ったメッセージを国民に送りかねない、という指摘です。

実際の財政負担は次の規模になっています。

補助を受ける側としてはありがたい制度ですが、これが毎年続くとすれば、その原資は税金です。根本的な構造を変えなければ、負担は形を変えて残り続けることになります。

半世紀で改善は14ポイント — 「多角化」の限界

意見書のなかで最も示唆に富むのが、過去半世紀の振り返りです。

1970年代の二度の石油ショックを受けて、日本はエネルギー供給源の「多角化」を進めてきました。これは調達リスクを抑えるうえで一定の成果を上げています。しかし意見書は、その中心が「石油への一極依存を、石炭やガスに置き換えたもの」であり、化石燃料への依存という構造は基本的に維持されたままだと指摘します。

数字で見ると、日本の一次エネルギーの化石燃料依存度は次のように推移しました。

半世紀かけて、改善はわずか14ポイント。これが「半世紀越しの宿題」という副題の意味です。

改善を牽引したのは再生可能エネルギーの拡大

では、その14ポイントの改善は何によってもたらされたのか。意見書は、福島原発事故後の状況も踏まえたうえで、実質的な改善を担ったのは国産エネルギーである再生可能エネルギーの拡大だったとしています。

同じ期間(1973年度→2024年度)の内訳は次のとおりです。

水力以外の再エネが1%から12%へと伸びたことが、依存度の改善を主に牽引したという整理です。エネルギーを産出しない日本にとって、国産エネルギーである再エネの拡大は自立性を高める手段になる、というのが意見書の主張です。

企業が立地を判断する材料になりつつある

JCLPは、多くのエネルギー需要家企業を含む企業集団としての実感も述べています。

産業の立地や投資の判断において、競争力のある再エネを調達できるかどうかが、すでに重要な経営判断の一つになっているという指摘です。国際的な取引先からの要請、炭素情報等の開示義務化、国境炭素調整メカニズムといった流れのもとでは、化石燃料に依存した高コスト・高排出のエネルギー構造は、日本への投資判断においてマイナス要因として作用しかねない、としています。

工場をどこに建てるかという判断に、その地域で再エネを調達できるかが影響する。地方にとっては、企業誘致の条件が変わりつつあるということでもあります。

JCLPが挙げる5つの領域

意見書は、需給構造の改善に効果があり、かつ伸びしろが大きい領域として、次の5つを挙げています。政府が既に掲げる「2040年再エネ最大電源化」の方針を実現・強化するものと位置づけられています。

  1. 建築物の断熱:既築建物を含む断熱補助の抜本拡大。空調エネルギー需要の削減と、猛暑下での健康維持を両立する
  2. ゼロエミッション車(ZEV)と充電インフラ:ガソリン需要の削減に直結する。充電インフラのロードマップ策定と支援
  3. 屋根置き型および営農型の太陽光発電等:まだ多くのポテンシャルが残る領域。屋根置き型への与信支援、営農型太陽光を加速するための規制緩和
  4. 浮体式洋上風力:深い海域が多い日本で有用。再エネのなかでも最大の技術的ポテンシャルを持つ国産エネルギー資源
  5. 電力系統の整備等:地域間連系線を含む系統整備、蓄電池、デマンドレスポンス、予測・制御技術の実装

なお洋上風力のポテンシャルは、着床式が62GW、浮体式が約2,347GWと試算されています(三菱総合研究所、2025年)。浮体式の潜在量が桁違いに大きいことがわかります。

建設業に関わるのは「断熱」— 担い手は地域事業者

5つの領域のうち、地域の建設業に最も近いのが1番目の「建築物の断熱」です。意見書はこの領域について、次のように述べています。

「担い手は地域事業者が中心であり、地域経済にも寄与する」

断熱改修は、大手ゼネコンが手がける大規模工事ではなく、地元の工務店や建設業者が担う仕事です。既築建物の断熱補助が抜本的に拡大されれば、その予算は地域の事業者に回り、地域経済の循環につながります。エネルギー政策の話でありながら、地方の雇用と仕事量の話でもあるわけです。

岩手のように冬の寒さが厳しく、近年は夏の猛暑も加わる地域では、断熱の効果は特に大きくなります。当社は断熱工事そのものを手がけているわけではありませんが、地域の建設業全体の仕事量に関わる話として、注目しておきたい論点です。

次回予告

最終回となる第4回は、JCLPが2026年1月22日に公表した「脱炭素移行推進のためのサーキュラーエコノミー実現に向けた提言」を取り上げます。太陽光パネルの大量廃棄という、これから本格化する課題を入口に、資源を循環させる仕組みについて整理します。

まとめ

砕石・砂利のご用命、土木工事や除雪のご相談は、TEL:019-638-7521までお気軽にお問い合わせください。

参考・出典

※本稿は上記資料に基づく時点情報です。エネルギー価格や補助制度は状況により変動しますので、最新の情報は各機関の公式発表をご確認ください。

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