「 ZEV 」とは?商用車の電動化で日本が直面する課題【第2回】
環境学習シリーズの第2回です。前回は、233社が加盟する企業グループ「JCLP(日本気候リーダーズ・パートナーシップ)」の全体像をご紹介しました。
今回取り上げるのは、JCLPが2026年6月8日に公表した「商用車のゼロエミッション車への転換加速に向けた意見書」です。トラックやダンプの電動化という、当社のような運搬を伴う事業者にとって避けて通れないテーマですので、 ZEV とは何かという基本から、日本がいまどの位置にいるのかまで、順を追って整理します。

ZEV とは?ハイブリッド車は含まれない
ZEV は「Zero Emission Vehicle(ゼロエミッション車)」の略で、走行時に排出ガスを出さない車両を指します。具体的には、電気自動車(BEV)と燃料電池車(FCEV)が該当します。
注意したいのは、ハイブリッド車などの内燃機関車は ZEV に含まれないという点です。JCLPの意見書でも、この定義がはっきりと示されています。エンジンを積んでいる以上、走行時に排出ガスが出るためです。
意見書は、ハイブリッド車等の内燃機関車について「短中期においては一定の役割を果たし得る一方、長期的にはZEVへの移行が不可避である」との見方を示しています。当面の選択肢としては認めつつ、最終的な目的地は別にあるという整理です。
「商用車」とは何を指すのか
意見書における「商用車」とは、事業目的で使用する車両のことです。次のものが含まれます。
- 貨物輸送に用いられるトラック及びバン
- 旅客運送に用いられるバス及びタクシー
- 法人営業用の車両
つまり、当社が砕石の配達に使っているダンプも、営業に使う車両も、この「商用車」の範囲に入ります。
商用車はCO2排出量の約7.9%を占める
なぜ商用車が重視されるのか。それは排出量に占める割合が大きいからです。国土交通省の資料をもとに、意見書は次の数字を挙げています(いずれも2023年度)。
- 日本のCO2排出量のうち、運輸部門が19.2%を占める
- 自動車全体では日本全体の16.5%
- そのうち商用車が約7.9%
日本全体の排出量のおよそ13分の1が、事業に使われる車両から出ている計算になります。台数では乗用車のほうが圧倒的に多いにもかかわらず、商用車は走行距離が長く積載も重いため、排出量では大きな比重を占めます。
日本のZEV比率は約3%。世界との差
意見書が強い危機感を示しているのが、日本と世界の差です。
- 2025年の世界の新車BEVシェアは16%超。一方、日本では2%にも及ばず
- 日本の新車販売(2024年)に占めるZEV(BEV+PHV)の割合は約3%。中国の5割、欧州の2割、米国の1割を下回る
意見書は、この状況が環境面だけでなく、日本の基幹産業である自動車産業の国際競争力に関わる問題だと指摘しています。あわせて紹介されているのが、ZEVへの転換が遅れた場合の予測です。
- 日本の自動車業界の雇用人口は542万人(2020年)から482万人(2030年)に減少
- 日本の自動車産業の収益は2040年までに約65%減少(GDP比14.1%減)
(出典:The Climate Group(2022年)「ゼロエミッション車に向かう世界の中の日本」)
なぜ転換が進まないのか — 3すくみの構造
意見書のなかで、現場の実感として最も納得できるのがこの部分です。JCLPが関係者へのヒアリングを実施した結果、次の状況が把握されました。
- 自動車メーカーは、ZEV需要や充電設備の普及が見込めないと投資計画が立てられない
- 充電設備事業者は、ZEVの普及が見込めないと投資計画が立てられない
- ユーザー企業は、ZEVの開発や充電設備の整備が進まないと導入計画が立てられない
三者がそれぞれ「相手が動いてから」と様子見をしているため、誰も先に動けない。この膠着状態を解くために、政府が明確な方向性を示すべきだというのが、意見書の中心的な主張です。
充電設備については、さらに悪循環が指摘されています。ZEVが一定程度普及するまでは充電設備の稼働率が低く、それが高い利用料金に直結する。高い料金は利用率の低迷を招き、結果として充電設備の普及もZEVの普及も進まない、という構造です。
JCLPが政府に求める3つのこと
意見書は、需要家(車両を使う側)の立場から、政府に対して3つの提言を行っています。
①明確な方向付け、投資計画の明示、ZEV優遇の環境整備
- 1.5℃目標を目安とした、野心的な新車販売比率目標の設定
- 充電設備の導入目標及び投資計画の策定。EUでは「代替燃料インフラ規則(AFIR)」により、大型トラック用の350kW以上の超高出力充電設備を2030年までに主要幹線道路において60kmごとに最低3,600kWずつ設置するという、期限付きの目標が示されている
- ガソリン・ディーゼル車へのディスインセンティブ措置等によるZEVの需要喚起。今後の税制改正における自動車関係諸税の見直しについては、慎重な制度設計を求める
②補助金等のさらなる政府支援
- 車両への支援:BEVの車両価格は低下傾向、バッテリーの耐久性は向上傾向にあるものの、足元ではバッテリー寿命により使用年数がディーゼル車等に比べ短く、寿命後の交換コストも高い。ライフサイクルコストを考慮した補助金制度が重要
- 充電設備への支援:利用料金の低廉化を促す補助制度の整備。適切な設備配置のため、政府主導での充電需要調査を期待
- 補助金の交付にあたっては、脱炭素の観点から再エネ由来の電力・グリーン水素利用を条件とすべき
なお、2025年度における主な補助金の予算規模は次のとおりです。
- 商用車の電動化促進事業:2025年度補正予算 300億円
- クリーンエネルギー自動車導入促進補助金:2025年度補正予算 1,100億円
- 充電・充填インフラ等導入促進補助金:2025年度補正予算 510億円
③柔軟な制度運用
- 充電器設置に係る規制緩和:自治体の緑地規制によって充電器の設置スペースが限定される課題がある。緑地帯にEV充電器を設置した場合、設置面積の一部を緑地面積として認めるなどの柔軟な運用を求める
- 効率的な運行管理の実現:位置情報、残存バッテリー/水素量、充電・充填設備の空き情報などをオープンデータ化・共通化し、リアルタイムに情報取得できる車両運行管理システムを構築する
- バッテリースワップ式車両の検討:短時間でバッテリー交換ができる車両は、充電に要する時間を削減できる
- バッテリーの二次利用の推進:BEV中古車市場およびバッテリー二次利用市場の確立が急務。劣化具合や残存容量の適正な評価と、回収体制の構築が必要
- 人材育成:事業者が安心してZEVを導入できるよう、ZEV対応整備士の育成支援を進め、全国でサービスを受けられる環境を整備する
ダンプ・トラックを持つ事業者として気になる点
意見書を読んで、当社のような立場から特に現実的だと感じたのは次の3点です。
ひとつは、ライフサイクルコストの問題です。車両本体の価格だけを見て判断できないという指摘は、そのとおりだと思います。バッテリーの寿命が車両の使用年数を左右し、交換コストも高いとなれば、購入時の補助金だけでは判断材料として不十分です。ダンプは10年以上使うことも珍しくありませんので、この点は導入をためらう大きな理由になります。
ふたつめは、整備の問題です。ZEV対応整備士の育成という提言は地味ですが、地方にとっては切実です。近くに見てもらえる工場がなければ、どれだけ補助金が出ても導入には踏み切れません。
みっつめは、充電設備の配置です。意見書は、複数の物流事業者間では運行ルートや拠点網といった機密情報の共有が困難であることから、政府主導での充電需要調査を期待するとしています。どこに設備が必要かは、実際に走っている事業者にしかわからない情報です。盛岡のような地方で現場と砕石場を往復する使い方の場合、幹線道路沿いだけに設備があっても実用にはなりません。
当社としても、すぐに車両を入れ替えられるわけではありません。ただ、こうした議論が国レベルで進んでいることを知っておけば、次に車両を更新するときの判断材料になります。
次回予告
第3回は、JCLPが2026年7月30日に公表した意見書「日本のエネルギー安全保障の強化に向けて」を取り上げます。日本が化石燃料の輸入に年約26兆円を支払っている現状と、その改善に何が必要とされているのかを整理します。
- 第1回:JCLPとは?233社の企業連合が2050年ネットゼロを求める理由
- 第2回:ZEVとは?商用車の電動化で日本が直面する課題(本記事)
- 第3回:エネルギー安全保障と脱炭素|年約26兆円の化石燃料輸入
- 第4回:サーキュラーエコノミー(循環経済)の実現に向けた提言
まとめ
- ZEV(ゼロエミッション車)はBEVとFCEVを指し、ハイブリッド車などの内燃機関車は含まれません
- 商用車には、貨物輸送のトラック・バン、旅客運送のバス・タクシー、法人営業用の車両が含まれます
- 2023年度、日本のCO2排出量のうち運輸部門が19.2%、自動車全体で16.5%、商用車は約7.9%を占めます
- 日本の新車ZEV比率は約3%(2024年)で、中国5割・欧州2割・米国1割を下回ります
- メーカー・充電設備事業者・ユーザー企業が互いの動きを待つ「3すくみ」が、転換が進まない要因とされています
- JCLPは、方向付けの明示、ライフサイクルコストを考慮した補助、規制の柔軟運用とZEV対応整備士の育成などを求めています
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参考・出典
- 「商用車のゼロエミッション車への転換加速に向けた意見書」を公表しました(JCLP、2026年6月8日)
- 一般社団法人日本気候リーダーズ・パートナーシップ「商用車のゼロエミッション車への転換加速に向けた意見書」2026年6月8日(提言書全文)
- 運輸部門における二酸化炭素排出量(国土交通省)
- The Climate Group(2022年)「ゼロエミッション車に向かう世界の中の日本」
- 「JCLP」とは?233社の企業連合が2050年ネットゼロを求める理由(石名坂ブログ)
※本稿は上記資料に基づく時点情報です。補助金の予算規模や制度の内容は年度ごとに変わりますので、実際の申請にあたっては各制度の公式情報をご確認ください。

