「 みどりの食料システム戦略 」で農業のエネルギーはどう変わる?岩手と建設業の接点【最終回】

結論からお伝えします。この連載で見てきた「肥料」「農薬」「ハウスの暖房」「食品ロス」は、いずれも国が2050年に向けて掲げている「みどりの食料システム戦略」に目標が置かれている場所でした。4回かけて眺めてきたものは、ばらばらの雑学ではなく、国が「ここを削る」と決めている場所そのものでした。最終回は、その答え合わせから始めます。

前回の「 フードマイレージ 」は本当に環境の指標?航空機は船の146倍で、畑の外の話まで見てきました。今回は、主に①「農場まで」のモノサシに戻ります。ただし今回並ぶのは、使っている量ではなくこれから減らす量の目標です。国の目標を見たあと、岩手県の事情、そして建設業である当社との接点まで降ろしていきます。

4回分の答え合わせ――削るべき場所は、すでに分かっている

まず、この連載で見つけた「エネルギーが集まっている場所」を並べ直します。

そして、農林水産省が令和3年5月に決めた「みどりの食料システム戦略」の2050年目標のうち、この連載に関わる主なものは次のとおりです。

第2回で見た肥料32.1%と農薬4.6%には、「化学肥料30%低減(輸入原料や化石燃料を原料とするもの)」「化学農薬50%低減」という目標が正面から当たっています。第3回で見たハウスの暖房には、「化石燃料を使用しない施設への完全移行」が正面から当たります。

第4回の食品ロスにも、目標があります。上に挙げたのは戦略のKPI(数値目標)14項目のうち代表的なものですが、その⑧が食品ロスです。「2030年度までに事業系食品ロスを2000年度比で半減」「2050年までに事業系食品ロスの最小化」とされています。さらに国全体では、食品ロス削減推進法にもとづく第2次基本方針(令和7年3月閣議決定)で、2000年度比で2030年度までに家庭系50%減・事業系60%減(2000年度980万トン→2030年度435万トン)という目標が置かれました。つまり、この連載で追いかけた4か所は、4か所とも国の目標が置かれている場所でした。偶然そうなったのではなく、削れる量が大きい場所だから、私たちの目にも国の計画にも同じように残っていた、ということだと思います。

国の目標を、この連載の数字に当てはめる

ここが今回いちばん込み入ったところなので、丁寧にいきます。2050年の目標とは別に、国には2030年度に向けた、より手前の削減目標があります。農林水産省地球温暖化対策計画(令和7年4月改定。政府の地球温暖化対策計画〈令和7年2月閣議決定〉に対応するもの)にもとづく農林水産分野の目標で、農林水産省の資料には次の値が載っています。いずれも2013年度と比べて、その年までに減らす量です。

施設園芸は農業機械の約200倍(155 ÷ 0.79 = 約196)です。この2つは同じ計画の同じ枠に並んだ、同じ年度・同じ基準の数字です。ただし農業機械側の対策は自動操舵装置の普及が中心で、電化・水素化は2030年の時点ではまだ効果が見込まれていません。削減目標が小さいことは、農業機械の排出が小さいことを意味しません。

誤解のないように補足します。これは「排出量が200倍」ではなく、「削る量の配分が200倍違う」という意味です。国は、農業の脱炭素で2030年までに手を入れる場所として、トラクターではなくハウスの暖房を選んでいるということになります。排出が小さいからではなく、その年までに実装できる省エネ技術が施設園芸の側にそろっているから、と読むのが正確です。なお、第3回の170倍はエネルギー量そのものの比でしたので、これとはまた別のモノサシです。

この配分は、第3回で見た数字と符合します。加温設備の面積のうち石油を使う設備が84.8%、ヒートポンプは7.4%(令和6年)。削れる余地が、ほとんど手つかずで残っている場所だからこそ、削減目標も大きく置かれている、と読むことができます。第2回で「アイドリングを止めるだけでは足りない」と書きましたが、国の計画も同じ方向を向いていました。

農業のエネルギー効率の連載で見てきた4か所と、みどりの食料システム戦略の目標を1対1で結んだ対応図。左は肥料(水稲の投入エネルギーの32.1%、範囲は圃場まで、2001年の実績)、農薬類(4.6%)、ハウスの暖房(同じ10アールで水稲の約170倍、加温設備の面積の84.8%が石油、令和6年)、食品ロス(464万トン、1人年間約37キログラム、令和5年度)。右は農林水産省のみどりの食料システム戦略(令和3年5月)の目標で、輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減、化学農薬の使用量を50%低減、化石燃料を使用しない施設への完全移行(いずれも2050年)、事業系食品ロスを2000年度比で半減(2030年度)。左の4つは測った範囲も年次も異なるため、量の大小は比べられない。30%と50%の基準年は戦略に明記されていない。

岩手の農業は、少し形が違う

ここから地元の話です。岩手県「家畜排せつ物利用促進計画」の概要(令和8年3月)によると、令和6年の県全体の農業産出額は3,269億円(全国10位)。そのうち畜産が1,864億円で57.0%(全国4位)を占めます。りんどうやホップの出荷が全国1位、りんごが全国3位という顔もありますが、金額で見れば、岩手の農業の6割近くは畜産です。ただしこれは産出額のシェアであって、エネルギー消費のシェアではありません。それでも、施設園芸が中心の県とは打ち手の順番が変わってきそうだ、とは言えます。

ここで、正直にお伝えしておきたいことがあります。岩手県の農業分野に絞ったエネルギー消費のデータは、公表されていません。県の統計資料「岩手県農業の指標」(令和6年度版)を全ページ確認しましたが、施設園芸やハウスの面積を載せた統計表すら見当たりませんでした。第1回で「日本の統計では農業と建設業が同じ区分にまとめられている」と書きましたが、県の単位まで降りると、そもそも数える対象になっていないのが実情です。この連載の数字が全国値ばかりなのは、そのためです。

代わりに、畜産では県の一次資料があります。同じ計画によると、県内の家畜排せつ物は年間約360万トン(令和5年の推計)。その処理方法は堆肥化が約58%、メタン発酵(バイオガス)は約3%(正確には58.26%と2.90%)です(令和6年8月1日時点)。

つまり「畜産県だからバイオガス発電が進んでいる」わけではありません。大半は堆肥として農地に戻っています。堆肥は化学肥料の代わりになりますから、これは第2回の肥料の話と、みどりの食料システム戦略の「化学肥料30%低減」に直接つながる資源です。県の計画にも、豚ぷん・鶏ふんの活用推進が課題として挙げられています。いっぽうで、県内21か所の堆肥センターのうち17施設は設置から20年以上が経過しており、維持修繕が課題だとも書かれています。資源はあるが、それを回す設備が古い、という段階です。

農地の上で電気を作る(営農型太陽光)

もう一つの打ち手が、農地に支柱を立てて上に太陽光パネルを載せ、下で作物を作りながら発電する「営農型太陽光発電」です。農林水産省の資料では、農地の一時転用許可は2023年度末までに累計6,137件、下部の農地面積は約1,362ヘクタールまで増えています。

ただし、無条件に良い話として紹介することはできません。同じ資料には、2023年度末(令和5年度末)の時点で存続している5,167件のうち、下部農地での営農に支障が出ていたものが24%(1,221件)あり、その支障のうち71%は、営農者に起因する単収(単位面積あたりの収量)の減少や生育不良です(災害などによるものを加えると78%)。令和6年4月には、「単収が2割以上減った場合」を許可しない基準として法令に明記されました。国が交付金を一時停止する措置をとった例もあります。上で発電できても、下で作物が育たなければ本末転倒という当たり前のことが、制度の側でも問題になっているということです。

岩手県内の営農型太陽光について、県や市町村がまとめた統計は見つかりませんでした。ただし陸前高田市は、環境省の「脱炭素先行地域」の5回目の選定(令和6年9月)で選ばれています。その計画には、果樹栽培に合わせた営農型太陽光発電8,330キロワット(キロワットは発電できる能力の単位)の導入が盛り込まれました。生ごみ・下水汚泥をメタン発酵させて得た消化液を、液体肥料として使う取り組みも含まれています。事業者の発表によれば、先行して稼働している設備では「パネルがあるほうが雨を避けられ、ブドウの生育が良かった」という結果も出ているそうです。ただしこの先行設備が建っているのは農地ではなく雑種地で、さきほどの一時転用許可6,137件には含まれていません。県内でも、試している人たちがすでにいます。

背景には県全体の目標があります。岩手県は2030年度の温室効果ガスを2013年度比で57%削減、再生可能エネルギーの電力自給率を66%にする目標を掲げています。この57%には、森林などの吸収分も含まれた数字です。県の計画の中間見直し(令和8年3月改訂)では、「化学肥料の使用量低減」や水田の中干し期間の延長が、新たに追加した施策として挙げられました。この連載で追いかけてきたテーマが、そのまま県の計画に載っている形です。

建設業は、農業の省エネのどこに関われるか

ここで、建設業である当社の話を少しだけさせてください。農業に注文をつけたいのではありません。同じ悩みを抱えた隣の産業として、並べてみたいという趣旨です。

第1回で書いたとおり、日本のエネルギー統計では農業と建設業は「農林水産鉱建設業」という同じ区分にまとめられています。どちらも、自分の業種だけを切り出した数字が国の統計に存在しません。当社がいわて環境マネジメントシステム(IES)ステップ1の認証を取ったときも、まず社内で軽油と電気の使用量を一から拾い直すところから始めました。測っていないものは、減らせません。農業も建設業も、まだその手前の「自分が使っている量を数える」段階にいる――これが、いちばん正直な共通点だと思います。

そのうえで、建設業が農業のエネルギーに実際に触れている場所は、いくつかあります。

できないことも、はっきりさせておきます。ハウスの温度管理も、施肥の設計も、私たちの領分ではありません。それは農家の方と、普及・研究の仕事です。当社が確かに言えるのは、第2回で書いたアイドリング1時間=軽油約0.7リットルという話が、30馬力級のトラクターについての測定例で、同じ考え方が建設機械にもそのまま当てはまる、ということくらいです。業種が違っても、現場でやることはそう変わりません。

私たちにできること

シリーズを終えて

以下は、各回の要点の再掲です。数値はそれぞれ測っている範囲も年次も違いますので、並べて比べないでください。

5回を通じて守ったつもりの約束が、ひとつあります。農業を責めないこと。今の農業の形は、少ない人手で日本中の食卓を毎日支えるために選ばれてきた形で、その要求を出しているのは私たち消費者の側です。数字は、犯人を探すためではなく、どこを直せばいちばん効くかを知るためにありました。お付き合いいただき、ありがとうございました。

まとめ

※本稿は2026年8月時点で公表されている資料に基づく時点情報です。みどりの食料システム戦略は令和3年5月策定、2030年度の削減目標は農林水産省地球温暖化対策計画(令和7年4月改定)にもとづく値、営農型太陽光の実績は2023年度末まで、岩手県の農業産出額は令和6年、家畜排せつ物の処理割合は令和6年8月1日時点、園芸用施設の設置状況は令和6年の値です。年次の異なる数値を含むため、同じ表に並べての比較はできません。また、本稿の数値は第1回から第4回で扱った数値とは対象範囲が異なるものを含むため、単純な合算や比較はできません。最新の数値は各機関の公式発表をご確認ください。

参考・出典

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