「 フードマイレージ 」は本当に環境の指標?航空機は船の146倍【第4回】

結論からお伝えします。「地元産だから環境にやさしい」とは、残念ながら言い切れません。同じ1トンの荷物を1キロメートル運ぶときに出るCO2は、外航船(ばら積み船。穀物や鉱石を袋に詰めず、そのまま船倉に積む大型船)で10グラム、トラックで180グラム、航空機で1,461グラム。航空機は船の146倍です。食べ物が運ばれるときの環境負荷は、どれだけ遠いかよりも、何に載せて運ぶかで大きく変わります。

前回の「 施設園芸 燃料 」はどれくらい?冬のきゅうりは田んぼの170倍で、畑とハウスの中の話は終わりです。今回は、3つめのモノサシ――③「輸送だけ」の話です。生産も加工も調理も廃棄も入っていない、運ぶ工程だけを細長く切り出したモノサシです。そしてこの回は、これまでの3回とは少し役割が違います。「フードマイレージ」という有名な指標を紹介したうえで、その限界を、書き手である私たちの側から先にお伝えする回です。

食べ物は、食べる前に長い距離を移動している

まず、フードマイレージという言葉の中身を確かめておきます。これは食料の重さ(トン)× 運ばれた距離(キロメートル)を掛け合わせた数字で、単位は「トン・キロメートル」です。重いものを遠くから運ぶほど大きくなります。もとはイギリスで生まれた「フードマイルズ」という考え方で、これを日本の輸入食料について計算したのが、農林水産省の中田哲也氏です。

日本の食べ物が長い距離を移動しているのは事実です。第1回でお伝えしたとおり、食料自給率はカロリーベースで38%(令和6年度)。私たちに供給されているカロリーの6割以上は、海の向こうで作られたものです。

なぜそうなったのか。理由は前回までと同じ構造です。価格と、一年中とぎれなく出荷する周年供給と、国内では作りにくい品目があること。小麦や大豆、とうもろこしを国内だけでまかなうのは簡単ではありません。冬に食卓を埋めるためには、国内の加温ハウスか、旬を迎えている外国の畑か、どちらかに頼ることになります。前回「なぜ冬にきゅうりを作るのか」を見ましたが、輸入もまた、同じ「一年中・安く・安定して食べたい」という要求に対する、もう一つの答えでした。この2つは、実は競合する選択肢です。

130キログラムのCO2を、生活に言い換えると

では、運ぶことでどれだけのCO2が出ているのでしょうか。先ほどの中田氏が農林水産省の審議会に提出した資料(平成20年=2008年)では、2001年の貿易統計をもとに、日本の食料輸入に伴うCO2は年間1,690万トン。国民1人あたりにすると、年間およそ130キログラムと試算されています。

130キログラムと言われても、多いのか少ないのか分かりません。同じ資料では、環境省の当時のキャンペーンの数値を使って、次のように言い換えています。なお、いずれも2007年当時の家電と電力を前提にした換算です。

家庭で節電をがんばって12年かけて減らす分が、輸入食料を運ぶだけで1年に出ている、という規模感です。ちなみに同じ資料では、国内での食料輸送に伴うCO2を年間900万トン(2000年度)としており、海外から運んでくる分は、国内を運ぶ分のおよそ1.9倍にあたります。

ただし、この130キログラムには大きな但し書きが付きます。範囲は、輸出国の首都から輸出港へ、そして日本の輸入港に着くまで。畑で作るときのエネルギーも、加工も、日本の港から先のトラックも、家庭での調理も、捨てるときも、まったく入っていません。第1回の3.54キロカロリー、第2回の肥料32.1%、第3回の170倍とは、測っている範囲がそれぞれ違います。足し算も、大小の比較もできません。

距離より、何で運ぶか――146倍の差

ここが今回の中心です。同じ資料に、輸送機関ごとのCO2排出係数が載っています。1トンの荷物を1キロメートル運ぶときに出るCO2(グラム)で、国土交通省「交通関係エネルギー要覧」(平成13・14年=2001・2002年版)の値です。

冒頭の146倍は、1,461 ÷ 10 です。ここで前提をはっきりさせておきます。この146倍は、いちばん効率の良い船(ばら積み船)と比べたときの数字です。相手をコンテナ船(21)にすれば約70倍になります。トラックと比べれば約8倍です。トラックは、ばら積み船の18倍。倍率は「何と何を比べたか」で変わりますので、数字だけが独り歩きしないよう、比較の相手をセットで覚えていただければと思います。

この差がどれくらい効くのか、上の係数だけで単純に計算してみます。1トンの穀物を地球の裏側から2万キロメートル、ばら積み船で運ぶと、10 × 20,000 で約200キログラムのCO2。いっぽう同じ1トンを航空機で運ぶと、わずか137キロメートル(200,000 ÷ 1,461)で同じ200キログラムに達します。距離が146分の1でも並んでしまうわけです。なお、野菜や果実はばら積み船ではなくコンテナ船(21)で運ばれるのが一般的です。同じ2万キロメートルなら約420キログラムになります。港から先の輸送などを含まない、係数だけの単純計算ですが、桁の感覚はつかんでいただけると思います。

なお、この排出係数は20年以上前に公表された資料の値です。その後の燃費改善などで、現在の実態とは異なっている可能性があります。省エネ法(工場や運輸事業者に、エネルギーの使い方の報告と改善を求める法律)にもとづいて現在も使われている経済産業省・国土交通省の共同ガイドラインでも、目安の値は平成14・15年度(2002・2003年度)のデータで、同じ世代のものです。国土交通省が公表している2024年度の実績値もありますが、航空は旅客便の空きスペースを使う分だけを対象にした別の算定方法です。外航船舶の値も含まれていません。そのため、この記事の比較にはそのまま使えません。ここでお持ち帰りいただきたいのは1,461という数字そのものではなく、「輸送手段によって桁が変わる」という事実のほうです。

フードマイレージの落とし穴を示す、輸送機関別のCO2排出係数の棒グラフ。1トンの荷物を1キロメートル運ぶときに出るCO2は、外航船のばら積み船(穀物・油糧種子・大豆ミール)が10グラム、外航船のコンテナ船(野菜・果実)が21グラム、鉄道22グラム、内航船40グラム、営業用普通トラック180グラム、航空1,461グラムで、航空はばら積み船の146倍(1,461÷10)、コンテナ船の約70倍(1,461÷21)になる。ばら積み船なら20,000キロメートル運んで200キログラムのCO2だが、航空では137キロメートルで同じ量に達する。範囲は③輸送だけ(輸出国の港から日本の港まで)で、生産・加工・消費・廃棄は含まない。係数は国土交通省「交通関係エネルギー要覧」平成13・14年版の値で、20年以上前のデータ。

計算した本人が挙げた、3つの限界

フードマイレージは「食べ物がどれだけ移動しているか」を目に見えるようにした、優れた指標です。ただしこの指標を計算した中田氏自身が、同じ資料のなかで3つの限界を挙げています。ここは、この連載でいちばん正確に読んでいただきたいところです。

とくに③は、この連載を読んでこられた方には重く響くはずです。前回、冬に加温するハウスは同じ広さの田んぼの約170倍のエネルギーを使っていることをお伝えしました。ところがフードマイレージでは、その加温分は1グラムも数えられません。国産であれば距離が短いぶん、指標の上では小さく出ます。暖かい国の露地畑で作られて船で運ばれてきた野菜と比べたとき、どちらの環境負荷が小さいかは、フードマイレージだけでは判定できないということです。

ですから「フードマイレージが大きい=環境負荷が大きい」とは言えません。これは指標を批判しているのではありません。この指標が何を測っていて、何を測っていないかを、作った本人がきちんと書き残している、ということです。輸送だけを測る道具として使う分には、今も有効な指標です。

捨てるところまでがエネルギー

運ぶ話の先には、捨てる話があります。環境省と農林水産省の推計では、令和5年度の食品ロスは464万トン。国民1人あたり年間およそ37キログラムです。毎日おにぎり1個分(約102グラム)を捨てているくらいの量にあたります。

この数字には、良い動きも出ています。内訳は家庭から233万トン(家庭系)、事業者から231万トン(事業系)で、前年度から約8万トン(1.7%)減り、詳細な推計を始めた平成24年度(2012年度)以降でもっとも少なくなりました。また、数字の上では、事業者から出るロスが家庭から出るロスを下回りました。お店や工場の側の取り組みが、数字に表れてきているということだと思います。

ここで、この連載の3回分がつながります。捨てられた食べ物には、そこまでのエネルギーがすべて乗っています。第2回で見た肥料を作るエネルギー、第3回で見たハウスの暖房、そして今回の輸送。前回ご紹介した加温ハウスのきゅうりも、食べられずに捨てられれば、暖房のために燃やした燃油はまるごと無駄になります。食品ロスとは、投入したエネルギーを、食べ物ごと丸ごと捨てているということです。

第1回で引用した長沼氏らの論文には、気になる指摘もあります。日本人1人1日あたりの「供給された熱量」と「実際に食べた熱量」の差です。この差は、1965年から1975年ごろまでは約200キロカロリーで一定していました。それが2010年時点では約610キロカロリーに広がっています。論文は、1975年以降に差が広がった分を、高度経済成長後の食生活の変化の影響と見ています。また、この差にあたる熱量が食品廃棄物になっている可能性が高いことも指摘しています。同じ論文では、食品ロス由来のCO2が食料生産由来CO2の約5.3%にあたるとも試算されています。なお、この論文の「食品ロス」は野菜の皮など不可食部も含む値で、先ほどの環境省・農林水産省の「食品ロス」(可食部のみ)とは範囲が異なります。

言い換えると、ロスを減らすことは、3つのモノサシすべてに同時に効く数少ない打ち手です。肥料も、暖房も、輸送も、まとめて減ります。この考え方は、国の政策にもそのまま入っています。次回・最終回で扱う「みどりの食料システム戦略」につながる話です。

私たちにできること

まとめ

※本稿は2026年8月時点で公表されている資料に基づく時点情報です。輸送機関別のCO2排出係数は国土交通省「交通関係エネルギー要覧」平成13・14年版の値、食料輸入に伴うCO2の試算は2001年の貿易統計に基づく試算(平成15年12月の論文で公表され、平成20年の審議会資料に再掲)、国内の食料輸送に伴うCO2は2000年度の値、供給熱量と摂取熱量の差は2010年時点の推計、食料自給率は令和6年度、食品ロスは令和5年度の推計値です。年次の異なる数値を含むため、同じ表に並べての比較はできません。また、本稿の「輸送だけ」の数値は、第1回から第3回で扱った「農場まで」「食卓まで」の数値とは対象範囲が異なるため、合算も大小比較もできません。最新の数値は各機関の公式発表をご確認ください。

参考・出典

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