「 施設園芸 燃料 」はどれくらい?冬のきゅうりは田んぼの170倍【第3回】
結論からお伝えします。同じ10アール(1,000平方メートル)の広さで比べると、冬に暖房するきゅうりのハウスは、田んぼのおよそ170倍のエネルギーを使っています。加温ハウスのきゅうりが1年で燃やす燃油9.8キロリットル(9,800リットル)は、熱量にすると約383ギガジュール(ジュールは熱量の単位。ギガジュールはその10億倍)。一般家庭およそ27軒分の年間電力にあたります(環境省の調査による1世帯あたりの年間電力3,911キロワットアワー=約14.08ギガジュールで換算。以下同じ)。同じ広さの田んぼは約2.26ギガジュールですから、桁が2つ違います。
前回の「 農業 肥料 エネルギー 」の意外な内訳――田んぼで使う燃料より、肥料を作るほうが多いでは、田んぼの中身を開けて「1位は肥料」という話をしました。今回も、いちばん狭いモノサシ――①「農場まで」の話です。今回引用する研究でも、この範囲を「圃場(ほじょう=田畑)まで」と呼んでいます。ただし、この回の数字はかなり強く見えます。だからこそ、なぜ冬にきゅうりを作るのかと、すでに燃油を8割減らした産地があることまで、同じ回に書きます。
「効率」を測るモノサシ――産出÷投入
数字に入る前に、言葉の確認をさせてください。今回使う「エネルギー収支比」は、作物として取り出せた熱量 ÷ 投入したエネルギーです。つまり大きいほど効率が良い数字になります。
第1回の「 農業 エネルギー効率 」とは?1kcal食べるのに3.54kcal使っている話でご紹介した「1キロカロリー食べるのに3.54キロカロリー」は、投入 ÷ 摂取でした。こちらは小さいほど効率が良い数字です。同じ「効率」という言葉でも、割り算の向きが逆になっています。ここを取り違えると、良い数字と悪い数字がまるごと入れ替わってしまいます。以下に出てくる数字は、すべて「大きいほど良い」ほうだとご記憶ください。
いも6.8〜9.1、施設作物0.04
仁平尊明が2003年に発表した研究では、日本の作物を作目ごとに計算した収支比(産出÷投入。範囲は圃場まで)が、次のように並んでいます。
- いも類 6.8〜9.1(投入した1に対し、7〜9倍の熱量が取れる)
- 穀類・豆類 1.7〜3.9
- 果実・露地野菜 0.6〜1.1(このあたりで、ほぼ収支がとんとんになります)
- 施設作物 0.04
最後の0.04が、この連載でいちばん極端な数字です。ひっくり返すと1 ÷ 0.04で25。食べ物として取り出せるカロリー1に対して、25倍前後の化石燃料由来のエネルギーを投入していることになります。いも類とは、2桁以上のひらきがあります。ただしこの25倍は、圃場までの、しかも施設作物だけの数字です。第1回の3.54倍(食卓まで・全食品の平均)とは測っている範囲が違うので、並べて比べることはできません。
ただし、ここは冷静に読む必要があります。収支比はカロリーで測っているため、もともとカロリーの低い野菜は不利に出ます。きゅうりやトマトは水分がほとんどで、栄養としての役割もカロリーではありません。0.04は「施設園芸が無駄だ」という意味の数字ではなく、暖房というエネルギーの塊がそこにあることを示す数字だと受け取るのが正確です。
同じ広さで、170倍
今回いちばん注意して読んでいただきたいのが、この比較です。冒頭の170倍は、次のように出しています。
- 加温ハウスのきゅうり(10アール):燃油9.8キロリットル = 約383ギガジュール(A重油の発熱量39.1ギガジュール/キロリットルで換算。農林水産省資料の省エネ設備導入前の実績)
- 水稲(10アール):約2.26ギガジュール(野口・齋藤2008、2001年の実績。1ヘクタール22,621メガジュールの10分の1)
- 383 ÷ 2.26 = 約170倍
ここで、この比較が対等ではないことをはっきり書いておきます。きゅうり側の383ギガジュールは、暖房で燃やした燃油だけの数字です。肥料も、ハウスの資材も、機械も、電気も入っていません。いっぽう水稲側の2.26ギガジュールには、肥料や農業機械を作る段階のエネルギーまで含まれています(前回お伝えしたとおり、水稲ではこの「作る段階」が62.8%を占めます)。
つまり比べ方は、きゅうりに有利に振れています。それでも170倍です。きゅうり側に肥料や資材の製造分を足せば、差はもっと開きます。この170倍は、大きめに出た数字ではなく、控えめに出た数字だとご理解ください。
なお、ハウスがすべてこうなるわけではありません。農林水産省の調査(令和6年=2024年)では、園芸用のガラス室・ハウスの設置面積37,278ヘクタールに対し、暖房設備があるのは16,162ヘクタール。およそ4割です。残りの6割は暖房しない無加温のハウスで、話がまったく変わります。

なぜ、それでも冬にきゅうりを作るのか
ここまでの数字を見て「では冬のハウス栽培はやめるべきでは」と思われたかもしれません。その前に、作っている側の事情を数字で見ておきます。
農林水産省「施設園芸をめぐる情勢」に載る営農類型別経営統計(令和6年)を10アールあたりで並べると、こうなります。施設野菜作の所得はおよそ89万円、稲作はおよそ3万2千円。同じ広さで、施設野菜はおよそ28倍を稼いでいます。
ただし、これは楽な仕事という意味ではありません。同じ10アールにかかる労働時間は、施設野菜作1,494時間に対し、稲作36時間。41倍です。所得が28倍、労働が41倍。時間あたりで見れば、むしろ割に合っていないとも言えます。
燃料代の重さも相当です。同省の資料では、経営費に占める動力光熱費(燃料代と電気代)の割合は施設温州ミカン(ハウスみかん)で36%、施設ピーマンで28%。稲作は7%、露地ピーマンは1%です。参考までに、他産業の乗合バスが9%。暖房するハウスは、バス事業より燃料に依存した経営だということになります。燃料価格が上がったとき、最初に打撃を受けるのは農家の方です。
それでも冬に加温するのは、冬でも野菜が並ぶ売り場と、産地の雇用と、農家の所得が、そこにかかっているからです。第1回で書いたとおり、これは「安く・安定して・一年中食べたい」という私たちの側の要求に、産地が応えてきた結果でもあります。責める相手を探す話ではありません。
燃油を8割減らした人たちがいる
ここからが、この回でいちばんお伝えしたい話です。暖房の燃油を大きく減らした実例が、すでにあります。農林水産省がまとめたヒートポンプ(電気で熱を汲み上げる冷暖房機。エアコンと同じ仕組み)の導入事例です。いずれもA重油の使用量です。
- ハウスみかん(佐賀県、115アール):約265キロリットル → 約54キロリットル(約8割減)。動力光熱費は約2,300万円から約1,100万円へ
- マスクメロン(千葉県、ハウス8棟 約23アール):約52キロリットル → 約6キロリットル
- きゅうり(加温ハウス10アール):9.8キロリットル → 2.5キロリットル(冒頭の170倍の分子が4分の1になり、43倍まで下がる計算です)
ハウスみかんの削減分211キロリットルは、熱量にすると約8,250ギガジュール。一般家庭およそ590軒分の年間電力に相当します。ハウス1か所の設備更新で、それだけ動きます。
では、どこまで広がっているのでしょうか。農林水産省の調査(令和6年)によると、加温設備のうちヒートポンプは面積ベースで7.4%(1棟に2種類の設備がある場合は重複して数えるため、先ほどの16,162ヘクタールとは合計がわずかに異なります)。いっぽう石油を使う設備が84.8%を占めています。裏を返せば、削れる余地は、ほとんど手つかずで残っているということです。もちろん導入には初期費用がかかりますし、品目や地域によって向き不向きもあります。「入れれば必ず8割減る」とは言えません。
設備を入れずにできることもあります。山形県が公表している施設園芸の技術指針(第3版、平成26年=2014年)の試算では、ハウス内にカーテンを1層入れるだけで暖房用の灯油が42%減るとされています。設定温度10℃・100坪のビニールハウスで、7,600リットルが4,422リットルになる計算です。断熱材を1枚足すのと同じ発想で、建設業の私たちにもなじみのある話です。ただしこれは山形県の気象条件での試算であり、全国どこでも同じ数字になるわけではありません。先ほどのヒートポンプの事例はA重油、こちらは灯油ですので、両者を直接足したり比べたりすることもできません。
なお「設定温度を下げればいい」という話には、注意書きが必要です。同じ指針では、設定温度を2℃下げたときの灯油の減り方は14%から31%まで、温度帯によって倍以上ちがうとされています。そして指針自身が、「単純に設定温度を下げることで暖房用燃料を削減することは、品目や作型によっては収量のみならず品質まで影響を及ぼし、むしろ経営上マイナスになることがある」と釘を刺しています。実際、アルストロメリアという花では、10℃から8℃に下げると3割の省エネになる一方で収量が1割以上落ちた、という結果も載っています。省エネと収入は、いつも同じ方向を向くわけではありません。
私たちにできること
- 旬を知っておきます。冬のハウス野菜を買わない、という話ではありません。その値段には、暖房のエネルギー代が乗っていると分かって買うだけで、見え方が変わります
- 買ったら食べきります。暖房に383ギガジュールをかけたハウスで育った野菜を捨てると、そのエネルギーもまるごと捨てることになります。この話は第4回で扱います
- 省エネ設備の話を「農家の努力」で終わらせません。ヒートポンプが7.4%にとどまっているのは、意識の問題ではありません。初期費用や、品目・地域との相性の問題です。どんな支援の仕組みがあるかを見ておくと、話が具体的になります
まとめ
- 作目別のエネルギー収支比(産出÷投入。大きいほど効率が良い)は、いも類6.8〜9.1、穀類・豆類1.7〜3.9、果実・露地野菜0.6〜1.1に対し、施設作物は0.04。カロリー1に対して25倍前後の化石燃料由来のエネルギーを投入している計算です(2003年発表、範囲は圃場まで)
- 同じ10アールで、加温ハウスのきゅうり(燃油9.8キロリットル=約383ギガジュール)は水稲(約2.26ギガジュール)の約170倍。一般家庭27軒分の年間電力にあたります
- この170倍は、控えめな比較です。きゅうり側は暖房の燃油だけ、水稲側は肥料や機械を作る段階まで含んでいます。条件をそろえれば、差はさらに開きます
- それでも冬に加温するのは、同じ10アールで施設野菜作が稲作の約28倍の所得を生むからです。ただし労働時間は約41倍で、動力光熱費が経営費の3割前後を占める経営もあります(令和6年)
- 打ち手はすでにあります。ヒートポンプ導入でハウスみかんの燃油が265キロリットルから54キロリットルへ約8割減った例がある一方、加温設備に占めるヒートポンプは7.4%、石油利用が84.8%(令和6年)。伸びしろは、ほぼ手つかずで残っています
※本稿は2026年8月時点で公表されている資料に基づく時点情報です。エネルギー収支比は2003年発表の推計、水稲のエネルギー消費量は2001年の特定の農場での実績、ヒートポンプの導入事例は平成29年公表の資料によるもので、園芸用施設の設置状況と経営統計は令和6年の値です。年次の異なる数値を含むため、同じ表に並べての比較はできません。また、山形県の指針(平成26年)の数値は灯油、ヒートポンプ事例の数値はA重油で、油種が異なります。山形県の試算は同県の気象条件・ビニールハウス・カーテン1層・面積100坪という前提の値であり、全国に一般化できるものではありません。最新の数値は各機関の公式発表をご確認ください。
参考・出典
- 長沼悠介・立花潤三・後藤尚弘「食料供給システムの物質・エネルギー解析と低炭素型の食生活に関する研究」土木学会論文集G(環境)Vol.70 No.6、2014年(仁平尊明「日本における作物生産の投入・産出エネルギーの算出」人文地理学研究 No.27、2003年の作目別収支比は、本論文の引用により確認)
- 西尾道徳「環境保全型農業レポート No.219」(仁平尊明『エネルギー効率からみた日本の農業地域』筑波大学出版会、2011年の紹介)
- 野口良造・齋藤高弘「インベントリ分析による機械化水稲生産のエネルギー消費量・効率の考察」農業情報研究 17(1)、2008年
- 省エネ設備で施設園芸の収益力向上を(農林水産省、平成29年8月)
- 園芸用施設の設置等の状況(令和6年)(農林水産省、令和8年3月公表)
- 施設園芸をめぐる情勢(農林水産省、令和8年5月)
- 山形県施設園芸省エネルギー化技術指針(第3版)(山形県農林水産部、平成26年12月)
- 施設園芸省エネルギー生産管理マニュアル(改定2版)(農林水産省、平成30年10月)
- エネルギー種別の発熱量・CO2排出係数(環境省)
- 令和5年度 家庭部門のCO2排出実態統計調査 結果について(確報値)(環境省、令和7年6月)
- みどりの食料システム戦略(農林水産省)
- 「 農業 エネルギー効率 」とは?1kcal食べるのに3.54kcal使っている話(石名坂ブログ・第1回)
- 「 農業 肥料 エネルギー 」の意外な内訳――田んぼで使う燃料より、肥料を作るほうが多い(石名坂ブログ・第2回)
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