「 岩手 農業 気候変動 」の影響は?お米・リンゴ・三陸の魚の2050年

結論からお伝えします。気候変動は、岩手の農林水産業に追い風と向かい風の両方を吹かせています。追い風の例は、お米。記録的猛暑だった2023年産の一等米比率(検査で最高等級と判定されたお米の割合)は全国59.6%(速報値)まで落ち込みましたが、岩手は92.5%と全国トップクラスを保ちました。向かい風の例は、秋サケ。岩手県水産技術センターが2026年7月末に公表した2026年度の回帰予報はわずか26トンで、震災前3年平均(約2.5万トン)の0.1%です。そして変化は、すでに海から始まっています。

前回の第2回「 気候変動 くらし 」への影響は?2050年の熱中症・電気代・保険料では、熱中症や保険料など生活面の変化を取り上げました。シリーズ第3回のテーマは「岩手の農林水産業」です。お米・リンゴ・三陸の魚・ワカメ・畜産と森の順に、公的機関の数値で見ていきます。

「 岩手 農業 気候変動 」の影響を追い風と向かい風で対比したインフォグラフィック。追い風はお米(2023年産一等米比率 全国59.6%に対し岩手92.5%)とリンゴ(全国3位・適地北上)、向かい風は秋サケ(2026年度回帰予報26トン・震災前の0.1%)、ワカメ(2031〜2050年に栄養塩枯渇が8〜12日早期化)、乳牛(2030年代に本州で生産性低下予測・岩手は産出額の約6割が畜産)。原因として三陸沖の平年より約10℃高い記録的水温を図示
気候変動が岩手の農林水産業に吹かせる「追い風と向かい風」。サケの26トンは2026年度の回帰予報値(95%予測範囲8〜118トン)です(出典: 岩手県水産技術センター、気象庁、農林水産省、水産研究・教育機構、A-PLATほか)

お米——「涼しい岩手」の追い風はいつまで続くか

2023年産のお米は、夏の記録的な暑さで全国の一等米比率が59.6%(速報値)と過去20年で最低の水準になりました。その中で岩手は92.5%(10月末時点の速報値)、主力の「ひとめぼれ」も92.1%と、全国トップクラスの品質を守りました。2024年産でも、一等米比率90%以上を保った産地は北海道・青森・岩手・山形・長野の5道県だけです(全国平均75.9%、農林水産省)。「夏が涼しい」という岩手の気候が、温暖化の時代にはむしろ強みになっている——これが追い風の正体です。

ただし、安泰とは言い切れません。第1回でご紹介したとおり、農研機構の予測(2021年、RCP2.6・RCP8.5シナリオによる解析)では、白未熟粒(高温の影響で白く濁ってしまう米粒)の割合が全国平均で今世紀半ばに約20%へ増えるとされています。なお、県のオリジナル品種「銀河のしずく」は、ヤマセ(夏に吹く冷たい東風)による冷害に負けない耐冷性を主眼に開発された品種で、高温耐性を主目的としたものではありません。県農業研究センターでは現在、ひとめぼれや銀河のしずくが高温下でどう品質を保てるか(高温登熟)の解析が進められています。

リンゴ——「りんご前線」が岩手を追い越す日

岩手は青森・長野に次ぐ全国3位のリンゴ産地です。盛岡は本州で初めて本格的なリンゴ栽培が始まった先進地であり、江刺の「サンふじ」は2018年の初競りで1箱130万円の値がついたブランドです。農林水産省の予測(RCP8.5シナリオ)では、2046〜2055年頃に関東内陸や日本海側の一部が栽培適地から外れる一方、北海道はほぼ全域が適地になるとされています。「りんご前線」が北上し、岩手は「残る主産地」として有利になる可能性と、北海道という新しいライバルが現れる可能性——両方の見方ができます。

県内でも高温の影響は現れ始めています。心配されるのは、実が赤く色づきにくくなる着色不良と、強い日差しで果実の表面が傷む日焼け果です。県農業研究センターは、果実にかぶせる被覆資材「サンテ」で日焼けを軽減する研究成果を公表しているほか(令和5年度)、8月下旬に収穫できる極早生の県オリジナル品種「紅ロマン」は高温の年でも色づきやすいとされています。品種と技術の両面で、適応(変化に備えること)が始まっています。

三陸の海——秋サケ「0.1%」の衝撃

最も大きな変化が起きているのが海です。岩手の秋サケは、昭和40年代には年約600トンでしたが、ふ化放流事業の成果で1996年には約7.3万トンまで増えました。ところが岩手県水産技術センターが2026年7月31日に公表した2026年度の回帰予報は26トン(0.94万尾)。予測には幅があり、95%の確率で8〜118トンの範囲とされていますが、中央の値で見ると震災前3年平均(約2.5万トン)のわずか0.1%です。新巻鮭が「地元の魚」でなくなる日が、現実味を帯びています。主な要因として、春の海水温上昇で放流した稚魚が育ちやすい水温の期間が短くなり、生き残る割合が下がったことが挙げられています(水産研究・教育機構)。

海の異変はサケだけではありません。気象庁は2023年8月、三陸沖の海洋内部で2022年秋以降、平年より約10℃も高い記録的な水温が続いていると発表しました。原因は暖かい海流「黒潮続流」の北上です。冬場の水温が下がりにくくなったことでウニによる海藻の食害が続き、海藻の森が消える磯焼けが深刻化。エサ場を失ったアワビの2020年度の水揚げは97トンと、前年度より18.5%減りました。一方で、海水温の上昇とともに北の海ではブリが増えています。北海道のブリ漁獲は2000年以前ほぼゼロから2020年に15,457トンへ増え、水産庁は海水温上昇を主な要因としています(第1回参照)。三陸でも「獲れる魚の顔ぶれの変化」にどう向き合うかが課題になりつつあります。

ワカメ——2031〜2050年、春が8〜12日早く「痩せる」

岩手と宮城の養殖ワカメは、合わせて全国シェアの7割弱を占めます。岩手は震災前には生産量日本一、令和6年も全国2位のワカメ県です。そのワカメにも予測が出ています。水産研究・教育機構の研究(2018年、RCP8.5シナリオ)によると、21世紀中頃(2031〜2050年)には、三陸の海で春に栄養塩(海の栄養分)が使い尽くされる時期が今より8〜12日早まると予測されています。栄養が早く切れると、収穫直前のワカメが色落ちし、品質が下がるおそれがあります。適応策として、栄養塩がいつ減るかを確率で示す「予測カレンダー」の技術がすでに実装されており、収穫時期を早める判断などに役立てられています。

畜産と森——意外な主役への影響

「岩手の農業」と聞くとお米や野菜を思い浮かべがちですが、実は主役は畜産です。2023年の岩手の農業産出額2,651億円のうち、約6割の1,608億円を畜産が占めます。ブロイラー(食用の若鶏)は全国3位、乳用牛の飼養頭数は全国4位です。国立環境研究所の気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)で紹介されている研究では、2030年代には本州のほぼ全域で乳牛の生産性が大きく低下すると予測されています。牛は暑いとエサを食べる量が減り、乳量や乳成分が下がり、夏の受胎率も落ちます。2010年の猛暑では、暑さによる乳牛の死亡・廃用が全国で大幅に増えました。送風・散水・断熱といった牛舎の暑熱対策が、北国の岩手でも必要になりつつあります。

森にも変化が及んでいます。ナラ枯れ(カシノナガキクイムシという虫が運ぶ菌でナラ類の木が集団で枯れる被害)は、岩手では2010年に奥州市の国有林で初めて確認されました。その後被害は北へ広がり続け、2025年11月末時点では花巻市・雫石町など6市町の民有林で新たに確認されています。温暖化で媒介する虫が越冬しやすくなったことが、被害拡大の背景にあると指摘されています。

私たちにできること

身近にできることを3つ挙げます。

当社の仕事も、岩手の農林水産業と無縁ではありません。農地や林道、漁港を支える土木工事、その土台になる砕石やダンプ運搬、冬の除雪——第一次産業の現場は、こうしたインフラの上に成り立っています。牛舎の断熱や換気といった暑熱対策の施工も、これから建設業に求められる「適応の仕事」の一つです。当社はIES(いわて環境マネジメントシステム)や脱炭素経営の取り組みを通じて、地域の産業を支える側からこの変化に向き合っていきます。次回・第4回は「産業と経済の2050年」——保険・製造業・観光への影響を取り上げる予定です。

まとめ

砕石・砂利・再生砕石のご用命、土木工事や除雪のご相談は、TEL:019-638-7521までお気軽にお問い合わせください。

※本稿は2026年8月時点の公表資料に基づく時点情報です。気候変動の予測値はシナリオ(温暖化対策の進み具合の想定)や研究の進展によって変わる可能性があり、漁獲予報などの数値も今後更新されます。最新の情報は各機関の公式発表をご確認ください。

参考・出典

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