「 気候変動 経済影響 」は?保険・製造業・観光の2050年

結論からお伝えします。温暖化対策を取らないまま3.2℃の気温上昇が現実になった場合、2050年の世界のGDP(国内総生産=経済全体の規模を示す数値)は、気候変動がない場合と比べて18.1%小さくなる——世界最大級の再保険会社スイス・リーは2021年、そんな試算を公表しました。パリ協定の目標を達成できた場合の減少は4.2%ですから、対策の有無で結果は4倍以上違います。ただし、気候変動が生むのは損失だけではありません。世界の適応(変化に備える対策)には年間最大50兆円規模の費用がかかるとの試算があり、裏を返せば同じ規模の「適応ビジネス」市場が生まれると見込まれています。

前回の第3回「 岩手 農業 気候変動 」の影響は?お米・リンゴ・三陸の魚の2050年では、岩手の第一次産業を取り上げました。シリーズ第4回のテーマは「産業と経済」です。世界経済・サプライチェーン(部品や材料の供給網)・観光・保険と情報開示・適応ビジネスの順に、公的機関や研究機関の数値で見ていきます。

「 気候変動 経済影響 」の要約インフォグラフィック。2050年の世界GDPはパリ協定達成で−4.2%、無対策(3.2℃上昇)で−18.1%とのスイス・リー試算。タイ洪水2011では日系約450社が被災し保険金約9,000億円、トヨタは26万台減産。天然雪で安定営業できるスキー場は全国349か所から4℃上昇で7か所に。一方、適応ビジネスは年間最大50兆円規模の試算があり筆頭はインフラ強靱化
気候変動が2050年の産業と経済に与える影響のまとめ。左が損失(GDP・サプライチェーン・観光)、右が市場(適応ビジネス・情報開示)。損失の裏側に、土木・建設業の出番があります(各数値の出典は記事末尾参照)

世界経済——対策の有無で結果が4倍以上違う

スイス・リーの試算(2021年4月)をもう少し詳しく見ると、2050年の世界GDPは気候変動がない場合と比べて、パリ協定の目標を達成した場合で−4.2%、現在の対策ペースのまま(2.0〜2.6℃上昇シナリオ)で−11.0〜−13.9%、無対策(3.2℃上昇)で−18.1%と予測されています。地域別では、日本を含む「先進アジア」は3.2℃上昇の場合に−15.4%と、北米(−9.5%)や欧州(−10.5%)より打撃が大きいとされています。アジアは暑さや水害の影響を受けやすいためです。

働く人への影響も試算されています。ILO(国際労働機関)は、熱ストレス(暑さによる体への負担)によって2030年までに世界でフルタイム労働8,000万人分に相当する労働時間が失われ、損失は約260兆円にのぼると予測しています。最も被害が大きい業種とされるのは農業と建設業——つまり、屋外で働く産業です。この点は、シリーズ最終回の第5回で改めて掘り下げます。

サプライチェーン——自社が無事でも部品が来ない

2011年のタイ大洪水では、バンコク近郊の7つの工業団地が浸水し、被災した838社のうち約450社が日系企業でした。日系の損害保険会社が支払った保険金は約9,000億円にのぼります。象徴的なのはトヨタ自動車で、タイ国内の自社3工場は浸水を免れたのに、部品メーカーの被災で調達網が寸断され、世界で26万台の減産を余儀なくされました。部品が1つ欠けるだけで車は完成しません。遠い国の水害が、自社が無事でも生産を止める——これがサプライチェーンリスクの怖さです。

同じ型の出来事はその後も続いています。2021年には台湾で半世紀で最悪級といわれる干ばつが起き、大量の水を使う半導体製造への影響が心配されました。2023〜24年には中米のパナマ運河が雨不足による水位低下で1日の通航隻数を36隻から22隻へ制限し(2023年12月)、海上輸送の遅れが世界に広がりました。温暖化が進むほど、こうした「遠くの気象が地元の工場や納期に響く」場面は増えると予測されています。

観光——スキー場「349か所→7か所」の予測

冬の観光には、より直接的な数字が出ています。北海道大学と森林総合研究所の研究チームは2026年8月、全国349のスキー場について積雪のシミュレーション評価を公表しました。天然雪だけで安定して営業できるスキー場は、2℃上昇の世界では53か所、4℃上昇の世界ではわずか7か所になると予測されています。人工降雪機で補う方法もありますが、降雪機も気温が氷点下でなければ雪を作れないため、暖冬が進むほど頼りにくくなるとされています。

岩手では、すでに現実の出来事があります。雫石町の小岩井農場で50回以上続いた冬の風物詩「いわて雪まつり」は、雪不足や来場者の減少などを理由に、2022年8月に終了が発表されました。以前の記事でご紹介したとおり、岩手の冬日(最低気温0℃未満の日)は2℃上昇で21日、4℃上昇で69日減ると予測されています。雪は観光資源であると同時に、私たち除雪業の仕事の前提でもあります。冬のあり方の変化は、地域経済全体の課題です。

保険と開示——企業の「気候リスク」が数字で問われる時代

災害が増えれば、保険にも影響が及びます。金融庁のシナリオ分析(2025年6月)では、水災(洪水など水の災害)による保険金の支払いは、住宅よりも企業物件で影響が大きくなると分析されています(くらし側から見た保険料の話は第2回で取り上げました)。工場や倉庫、重機を持つ企業にとって、保険料は今後じわじわ効いてくるコストになる可能性があります。

もう一つの大きな流れが「情報開示」です。SSBJ(サステナビリティ基準委員会)が2025年3月に公表した基準に基づき、2027年3月期から時価総額3兆円以上のプライム上場企業を皮切りに、1兆円以上(2028年3月期)、5,000億円以上(2029年3月期)と、気候リスクの開示を段階的に義務化する方針が金融庁の作業部会で示されています(2025年12月)。開示にはScope3(取引先を含むサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量)が含まれるため、大手企業が取引先の中小企業に排出量データを求める動きは、岩手の建設業にも波及していくと考えられます。この構図はJCLPシリーズ第1回で詳しく解説しています。

適応ビジネス——損失の裏側にある市場

ここまで損失の話が続きましたが、視点を変えると別の景色が見えます。UNEP(国連環境計画)などの試算によると、気候変動への適応(変化に備える対策)にかかる世界のコストは、2030〜2050年に年間28兆円〜最大50兆円規模にのぼるとされています(経済産業省資料引用、途上国中心)。裏を返せば、それだけの規模の「適応ビジネス」市場が生まれるということです。経済産業省は適応ビジネスを7つの分野に整理していますが、その筆頭に挙げられているのが「インフラ・建物の強靱化」——道路や堤防を災害に強くする仕事、まさに土木・建設業の本業です。

当社の砕石・土木工事・ダンプ運搬・除雪は、いずれもインフラを支える最前線の仕事です。そして、IES(いわて環境マネジメントシステム)や脱炭素経営認定に取り組んでいるのは、開示が当たり前になる時代に「選ばれる取引先」であり続けるためでもあります。次回・最終回の第5回では、この適応ビジネスと建設業の未来を正面から取り上げます。

まとめ

砕石・砂利・再生砕石のご用命、土木工事や除雪のご相談は、TEL:019-638-7521までお気軽にお問い合わせください。

※本稿は2026年8月時点の公表資料に基づく時点情報です。GDPや適応コストの試算はシナリオ(温暖化対策の進み具合の想定)や為替レートによって変わる可能性があり、開示義務化のスケジュールも今後の制度設計により変更される可能性があります。最新の情報は各機関の公式発表をご確認ください。

参考・出典

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