トラックの適正原価とは?運賃と許可更新の関係|第2回

トラック運送の許可が5年ごとの更新制になる、という話をシリーズ第1回でお伝えしました。第2回で扱うのは、その更新の可否が運賃の水準とつながっているという点です。 適正原価 を下回る運賃で仕事を受け続けると、許可の更新が認められない。そういう制度設計になっています。

この記事では、条文がどうつながっているのか、いま国でどこまで議論が進んでいるのか、そして荷主の側・元請の側にも関係する話であることを、2026年9月時点の一次資料をもとに整理します。当社(株式会社石名坂)は自家用(白ナンバー)のダンプで砕石や残土を運ぶ会社ですが、関連会社の有限会社石名坂商事が一般貨物自動車運送事業(緑ナンバー)の許可を持っています。荷主の立場と運送事業者の立場を、グループとして両方持っている側から書いています。

トラック運送の適正原価と許可更新の関係。下限水準・適正原価水準・モデル運賃水準の3層と、適正原価水準を上回れば許可を更新できる合否ラインを示した図

運賃が 適正原価 を下回り続けると、許可を更新できなくなります(施行日は未定)

結論から書きます。国土交通省は、次のように明記しています。

適正原価 を下回る水準の運賃及び料金の収受又は支払いが継続的に行われ、法第9条の3に反する事業運営が認められる場合には、許可基準を満たさないものとして、更新が認められないこととなる。

国土交通省「 適正原価 の設定に向けた有識者検討会」第1回 資料4 p.14(2026年7月17日)

ここで出てくる第9条の3は、2026年9月時点の貨物自動車運送事業法には存在しない条文です。令和7年法律第60号(2025年6月11日公布)の第2条により新設されるもので、施行日は未定です。 適正原価 を下回る額での運送の受託・委託を制限する規定として、これから効力を持つことになります。

あわせて新設される第9条の2は「運賃及び料金に係る 適正原価 」を、第9条の3は「 適正原価 を下回る運賃及び料金の制限」を定めるものです。番号が近く紛らわしいのですが、この記事で中心に扱うのは、下回ることを制限する側の第9条の3です。他所の解説で「第9条の3を守らなければ」と現在形で書かれていたら、それは未施行の条文の話だとお考えください。

条文はこうつながっています

  1. 第9条の3(新設・未施行)… 適正原価 を下回る額での運賃・料金の収受と支払いを制限する
  2. 第25条第1項第2号(改正)… 「 適正原価 を下回らない額での貨物の運送の受託及び委託、労働者の適切な処遇の確保」が追加される
  3. 第6条第1項第三号の二(新設)… 許可の基準に「第十五条第一項の基準及び第二十五条第一項の基準を遵守してその事業を遂行することその他法令の規定を遵守してその事業を遂行することが見込まれること」が加わる
  4. 第6条の2第5項(新設)… 第4条〜第6条を更新に準用する
適正原価が許可につながる4つの条文。第9条の3の安すぎる運賃の制限から、第25条第1項第2号、第6条第1項第三号の二を経て、第6条の2の5年ごとの更新につながることを示した図

図:運賃の話が、4つの条文をたどって許可の話につながる

第15条は輸送の安全(過労運転の防止、点検整備など)、第25条は事業の適確な遂行(車庫の整備・管理、保険料等の納付など)を定めた条文です(出典:e-Gov法令検索 貨物自動車運送事業法、2026年9月時点)。この2つの条番号は令和6年法律第23号で動いており、第15条は旧第17条、第25条は旧第24条の4にあたります。古い条番号のまま書かれた解説が残っているため、確認するときは注意が必要です。

①から④をつなぐと、運賃の水準が、許可の基準の中に組み込まれたということになります。これまで運賃は当事者間の契約の話でしたが、更新制のもとでは行政が更新の場面で見る対象に変わります。 適正原価 そのものの中身については、既存記事「「 適正原価 」とは?トラック運賃の新ルールをわかりやすく解説」で扱っています。

なお、1回の取引で下回ったら直ちに違反、という組み立てではありません。検討会の資料では「個別契約で下回っても直ちに違法ではない。一定期間において下回る状態が継続的に認められる場合に違法」と整理されています(第1回 資料4 p.4)。その「一定期間」を1年間としてはどうか、という案が示されている段階です(同 p.12)。まだ決まっていません。

国が示した3段階の措置

同じ資料4のp.2では、トラック事業者に対する法的措置が3段階で並べられています。

段階措置根拠条
1適正化機関(トラック協会)による巡回指導法第39条
2監査による行政処分法第33条
3更新の不許可法第6条の2
適正原価をめぐる行政の対応は3段階。巡回指導(法第39条)、監査と行政処分(法第33条)、更新の不許可(法第6条の2)と重くなることを示した階段の図

図:更新の不許可は、巡回指導と監査で積み上がった是正状況の最終的な出口に置かれている

この並びから読み取れるのは、更新制がまったく新しい審査として独立しているのではなく、巡回指導と監査で積み上がった是正状況の、最終的な出口として置かれている、という設計です。

ただし、巡回指導の結果が更新審査で具体的にどう扱われるのかを定めた省令・告示・通達は、2026年9月9日時点では確認できていません。図に順序が示されているだけの状態です。この点は本シリーズの第4回で、現行の審査基準を手がかりに整理します。

荷主の求めに応じた結果でも、事業者が更新できなくなる

ここが、荷主・元請の立場にある方に読んでいただきたい部分です。

同資料 p.15では、事業者要因による違反状態荷主要因(違反原因行為)による違反状態の両方について、一般貨物自動車運送事業者は「更新不可」と図示されています。つまり、安い運賃の原因が荷主側にあったとしても、許可を失うのは運送事業者の側だ、という構図です。

荷主側に何もないわけではありません。トラック・物流Gメンによる情報提供・要請・勧告・公表という手続きが用意されています(貨物自動車運送事業法 附則第1条の2「違反原因行為への対処」。こちらはすでに施行されています)。この仕組みについては「【徹底解説】トラック・物流Gメンの是正指導とは?荷主が守るべき運用指針」と「特定荷主の制度とは?」で扱っています。

もっとも、業界側からは不均衡だという声が出ています。全日本トラック協会は2026年8月26日の第2回検討会のヒアリングで、「トラック運送事業者には行政処分や更新不許可となるが、荷主はトラック・物流Gメンによる働きかけ・要請・勧告のみである」とし、「トラック運送事業者と荷主の法的措置に均衡を保たなければ、制度が機能しない恐れがある」と述べています(第2回 資料2 p.2)。

グループ会社に頼んでいる場合も、同じです

建設業では、本体が工事を請け、運搬は関連会社の運送部門に任せる、という形が珍しくありません。岩手県内でも、同じ構造の会社は多くあります。

この場合、法律の上ではどう扱われるでしょうか。別法人である以上、運送を委託すれば「荷主」と「運送事業者」の関係になります。資本関係があっても、社長が同じでも、法人が別なら別の当事者です。前の節で書いた「荷主要因による違反でも、更新できなくなるのは事業者のほう」という構図は、そのままグループ内の取引にも当てはまることになります。

身内だからという理由で運賃を抑えれば、その影響は委託先である運送会社の側の、許可の更新に及びうるという関係です。委託する側にとっては節約でも、受ける側にとっては許可の話になります。

加えて、2026年4月1日にすでに施行されている規制も、同じ関係にかかります。元請が再委託を2回以内に制限するよう努める努力義務(第23条の4)と、違法な白ナンバー事業者に運送を委託した荷主等への取締り(100万円以下の罰金)です。詳しくは「【令和7年改訂】改正貨物自動車運送事業法のポイント(書面化・実運送体制管理簿)」をご覧ください。

制度上の立場を確認する意味で書きます。当社グループも、株式会社石名坂(土木工事・砕石販売、自家用ダンプ)と、関連会社の有限会社石名坂商事(一般貨物自動車運送事業)という形です。更新制の対象になるのは石名坂商事の側で、当社は自家用のため対象外です。ただし、制度上の立場としては、当社は「荷主になりうる側」に立っています。「うちは白ナンバーだから関係ない」とはならない、という理解でいます。

標準的運賃は廃止される予定です

いま多くの事業者が交渉の目安に使っている「標準的な運賃」は、この改正で根拠を失います。

標準的運賃の根拠は貨物自動車運送事業法の附則第1条の3(「当分の間」の時限措置)ですが、令和7年法律第60号 第2条による改正で、この附則が削除されます。国土交通省の新旧対照表では、現行欄に附則第1条の3が掲げられ、改正案欄が空欄になっています(新旧対照表 pp.48-49)。国交省の説明資料にも「標準的運賃については廃止」と明記されています(物流政策推進関係者会議 資料2 p.1)。

両者の性格の違いを整理すると、次のようになります。

標準的運賃(廃止予定)適正原価 (新第9条の3)
性格荷主等から収受すべき運賃(原価+適正な利潤)費用サイドの原価(適正な利潤を含まない)
法的拘束力なし(参考指標)あり(下回らない義務。違反は行政処分・更新不許可につながる)
形式タリフ表(10ブロック、4車種+特殊車両割増)算定式+単価表を想定

出典:第1回 資料4 p.3・p.7・p.10第2回 資料8 p.2。なお、標準的運賃告示そのものがいつ失効するのかを明示した資料は、2026年9月9日時点で確認できませんでした。

注意しておきたいのは、適正原価 は利潤を含まないという点です。標準的運賃と同じ感覚で「これを取れば大丈夫」と読むと、性格を取り違えることになります。第1回検討会の議事要旨にも「 適正原価 が運賃水準の最低ラインとして機能してしまう危険性」を指摘する意見が記録されています。

適正原価 はどう決まるのか

金額はまだ決まっていません。いま議論をしているのは、国土交通省の「 適正原価 の設定に向けた有識者検討会」です。

提言のあと、物流政策推進会議に諮られ、運輸審議会への諮問を経て、国土交通大臣が 適正原価 を告示する、という順序が示されています(第1回 資料1物流政策推進関係者会議 資料4)。第1回検討会の資料には、この検討会では「 適正原価 」の具体的な金額については議論しないことを想定する、とも明記されています。

現時点で示されている方向性を、いくつか挙げます。いずれも案の段階です。

興味深いのは、 適正原価 の構成要素(案)のうち固定費・公租公課の内訳に、自動車関係税・自動車関係保険料と並んで「更新手数料」が挙げられている点です(第1回 資料4 p.8)。更新手数料の額はまだ決まっていませんが、原価に算入する方向で整理されています。更新制と運賃制度が、費目のレベルでもつながっているということです。

第2回検討会で示された段階的な制度設計の案

2026年8月26日の第2回検討会では、 適正原価 が逆に運賃の頭打ちになってしまう懸念を受けて、水準を3つに分ける制度設計のイメージが示されました(第2回 資料8 p.4「より高水準の運賃・料金収受を促すための段階的な制度設計のイメージ」)。以下、当ブログでは便宜上「3層」と呼びます。

水準位置づけ(案)
モデル運賃の適正な原価水準健全な経営や流通機能の維持向上のために目指すべき水準(引上げのインセンティブ)
適正原価 水準これを上回っていれば許可更新は可。継続して下回ってはならない
下限水準1年でも下回ってはならない

読み違えやすいところなので補足します。更新の可否を分ける線として図に置かれているのは、いちばん上のモデル運賃の水準ではなく、真ん中の 適正原価 水準です。モデル運賃の適正な原価水準のほうは、そこを目指して運賃・料金の引上げを促すために示される指標であって、更新の合否を決める基準ではない、という整理になっています。

あわせて、更新時の審査で単に 適正原価 を下回っていないかを確認するだけでなく、運賃・料金の収受水準に応じて巡回指導や監査の対応を段階的なものとしてはどうか、という提起もなされています。

ただし、これは案の段階であり、確定した制度ではありません。第2回検討会の議事概要は国土交通省のページに「後日公表予定」とあり、2026年9月9日時点では公表されていません。どのような議論が交わされたのかは、まだ読めない状態です。

もうひとつ、確定していないものとして挙げておきたいのが、ドライバーの賃金です。全日本トラック協会は「許可更新時に人件費の額・割合等を確認することなどが考えられる」と述べ(第2回 資料2 p.10)、国交省側も「適正な賃金を支払うことについて、事業許可の更新制度上どのように担保すべきか」を論点に挙げています(第1回 資料4 p.12)。審査項目として決まったものではありません。

今からできること

金額も算定式も告示されていない以上、「いくらにすればよいか」は今の時点では誰にも言えません。ただ、算定式に自社の数値を代入する方式が想定されている以上、自社の原価と稼働の実績を把握しておくことは、告示の内容にかかわらず必要になります。

実態調査の数値も、その必要性を示しています。回送料金について「収受できていない」と答えた事業者は67%、標準的運賃を100%収受できている事業者は1割、という結果です(第2回 資料8 p.5、資料2 p.3)。運んだ分の費用が運賃に乗り切っていない状態が、広く残っているということになります。

原価計算の道具についても、議論が出ています。全日本トラック協会は「モデル運賃に加え、自社の原価を計算、管理できるシステムやツールも必要である」と述べており(第2回 資料2 p.9)、国交省の事務局資料でも、 適正原価 を簡易に算出できるシステムを全日本トラック協会や国等において整備すべきではないか、という方向性が示されています(第2回 資料8 p.14)。整備を待つあいだにも、走行距離・稼働時間・燃料・人件費といった手元の数字を、契約単位で見られる形にしておくことには意味がありそうです。

また、2025年4月と2026年4月に段階的に施行されてきた書面化義務や実運送体制管理簿は、「どの運送を、いくらで、誰が実際に運んだか」を記録に残す仕組みです。 適正原価 の議論とは別の改正ですが、更新の場面で運賃の説明を求められたときに手元にある材料は、結局このあたりになります。内容は「【令和7年改訂】改正貨物自動車運送事業法のポイント(書面化・実運送体制管理簿)」で整理しています。

当社の受け止め

このシリーズを書き始めて、いちばん引っかかったのがこの第2回の内容でした。運賃は当事者どうしの話だという前提が、更新制のもとでは通らなくなるからです。

当社は自家用(白ナンバー)のダンプで運搬しており、許可更新制の直接の対象ではありません。ただ、工事や砕石の配達にあたって運送を委託すれば、そのとき当社は制度上荷主の側に立つことになります。相手の許可がどうなるかに、発注のしかたが関わってくる。制度の理屈としては、そういうことになります。

グループ内で運送を任せる場合も同じで、別法人である以上、扱いは変わりません。この点は、同じ構造で事業をされている会社にとっても共通の論点だと思います。第5回では、建設業と運送業をグループで分けている形を正面から扱います。

もっとも、 適正原価 の金額も算定式も、施行日も、まだ何ひとつ告示されていません。断定的に「いくらを下回ると危ない」と書かれた情報には、まだ根拠がないはずです。当ブログでは、検討会の資料と議事概要、そして告示・政省令が出るたびに内容を追い、このシリーズで共有していきます。

なお、本記事は2026年9月9日時点で公表されている一次資料をもとに整理したものです。制度は今後の告示・政令・省令で具体化されます。自社の許可や運賃の取扱いについて個別に確認される場合は、所管の運輸支局(岩手県内の事業者であれば岩手運輸支局)にお問い合わせいただくのが確実です。

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